中小企業が採用に成功するために必要な「応募者の心理と行動に合わせた採用活動」とは?

採用についていろいろ書いていますが、適当に思いつきで書いているのではなく、それの元となった資料があります。
「カスタマージャニー」と言って、顧客(カスタマー)が、それぞれの場面でどのような心理状態でどのようなステップである行為を完遂しているかを、その動きに沿って明らかにしていくものです。

ビジネスでも採用でも相手が何を考え、どういう行動するか? を知るのはとても大切なことですから、今回はそれを公開し、場面ごとに解説します。

退職に向かう一番の理由

まずは前段階として、転職しようとしている人が、前職を辞める理由を確認しましょう。

1位が「仕事が合わなかった」
2位は「人間関係」

というのが上位にあります。

出典:特集 就労等に関する若者の意識|平成30年版子供・若者白書(全体版) – 内閣府

言ってみれば、仕事内容や人間関係など「居心地の悪さ」が原因ということです。

転職時に気にすること

翻って、転職時に気にすることは何か?
退職理由が「仕事が合わなかった」「人間関係」であれば、転職するときもそれを気にすると思うのですが、どうやらそうではないようです。

私も採用に関わった仕事をしていますので、「転職時になにを考えているのか」について、インタビューを繰り返しています。

それを統合、分類、整理してカスタマージャニーという形にしたのが、以下の図です。
カスタマージャニーというのは、前述の通り、マーケティングで顧客がどんな考えでどういう行動をするか検討するためのツールです。
採用において応募者は顧客と考えれば、彼らがどんな考えでどういう行動するか?というのは有効なデータとなり得ます。

意外と人間関係を気にしない?

それぞれの場面について、一通り見てみましょう。
前提として、退職時には「仕事が合わない」「人間関係」を理由にしている人が多いのですから、そこへの興味の有無について見て行きます。

認知から情報収集

まずは、「なんとなくここいいかも」で始まります。
初期段階では、情報も少ないのですから、ネットで検索をして「なんとなく」のイメージで候補を絞って行く。というのが、取っ掛かりとしては一般的です。

旅行などでも調べることがあるでしょうが、最初は「なんとなく」でも、徐々に自分のイメージが鮮明になって行き、情報収集のポイントを絞って行くようになって行きます。。

しかし、転職では、情報収集段階でも「なんとなく」で推移しているようです。イメージが鮮明になって行くというより曖昧なまま先に進んでいく。という感じです。

比較検討

情報収集した企業の情報を比較検討し、絞り込み段階に移ります。
この段階で比較するのは、「業務内容」「募集職種」「会社の業績」「なぜ募集しているか?」など、企業がホームページで発信している情報が主です。

本来、退職に至った理由が、「仕事内容」「人間関係」であれば、「業務内容」「募集職種」だけでなく、「人間関係」にもっと注目して良さそうなものですが、なかなかそこに焦点が当たりません。

唯一、企業の発信とは別に、口コミサイトなどを見て、実態を把握しようとする人も居ますが、多くの人が参考程度と考えているようです。転職者から見て、口コミサイトの信頼性が低いのかもしれません。

この時点で、自分の期待が明確になっていれば、ホームページや口コミサイトだけの受け身で調べるだけでなく、何等かの動きをするのではないかと思いますが、私がインタビューした限りでは、そういう行動をする人はいませんでした。

結局、確認する項目は標準的な事で留まっている傾向があります。

応募から受験

応募した時点で、「その企業に合格したら入社しよう」という覚悟をある程度までは決めていると考えられますので、応募の段階では試験の日程調整や準備に費やされます。

受験段階は、本来「仕事内容」や「人間関係」について、詳細に聞き出すチャンスなのですが、なかなかそれが出来ないようです。

現実には、この時点では「その企業に合格すること」が関心の中心になっており、余計な事を聞くと、企業の心証を悪くしてしまうのでは?という不安から、なかなか聞けないようです。

入社承諾

合格の通知を受取った段階で、再度会社のことや、入社後の条件などを確認します。もう合格しているので、分からない点があれば割と気楽に質問します。

しかし、肝心の「仕事内容」や「人間関係」についてはあまり聞きません。
元々、「自分の期待が明確になっていない」上に、応募から受験段階で「合格すること」が目的化し、それを達成できたことから、ハイテンションになり、「仕事内容」や「人間関係」で退職したことはすっかり忘れているか、勝手にポジティブに想像しているかのいずれかのようです。

一方で、新しい職場、新しい仕事に対して多少は不安に思っている点もあるようです。

入社

普通はギャップがあって当り前ですし、そもそも「仕事内容」や「人間関係」を納得するまで聞いていないのですから、入社してギャップが無い方がおかしいと言えます。
普通は、何かあるでしょうし、事前に十分確認したとしても多かれ少なかれギャップに直面します。

ここで、改めて自身が「仕事の内容」や「人間関係」で前の会社を辞めたということが思い出されるわけです。

そのギャップが許容できるレベルのものであれば、なんとか続けようと考えますが、許容できないレベルのものであれば、退職となるケースが多くなります。
実際にインタビューした人の中には、試用期間中で退職を決意していた人も居ました。

なぜ「仕事の内容」や「人間関係」を確認できないか?

前項の内容を企業視点で考えると、採用活動自体が徒労に終わってしまって、至極残念です。
中には怒る経営者もいるだろうと思います。
一方転職者の視点で考えても、就職活動が徒労に終わってしまい、また同じように就職活動を始めなければなりません。こちらも至極残念です。

突き詰めて行けば、双方悪意はなく、ただ相性が悪かった。ということです。
恋愛でも「お付き合いしたら全く違った」なんてことが沢山あるし、「お付き合いしてた時は気付かなかったけど、結婚してみたら違った」「いやいや最初は良かったけど、中年になったら嫌になった」というのもよく聞きます。
結局は、双方致し方ない。と諦めるしかないのでしょう。

でも、元々の退職理由が「仕事の内容」や「人間関係」なのですから、なんとかこれを知る努力をすれば、双方が不幸な事態になる確率は減らせるはずです。

しかし、前述の通り、企業もそれを説明しようとしていないし、転職者もそれを確認していません。
なぜでしょう?
私は以下の理由があると考えています。

自社の長短は、分かり難い

極端な例として「パワハラ」が日常化している会社においては、その「パワハラ」がいけないことだと考える人は少ないでしょう。「パワハラ」があってはいけないと考える人が多数派であれば、「パワハラ」は撲滅しているはずですものね。

外部に比較対象があって初めて自社の位置付けが分かるのですが、会社組織というのはある意味閉鎖社会なので、外部と比較することはほとんど無いでしょう。

そういう会社であれば、自社の長所や短所は分かっていません。

自社の短所を説明し難い

仮に、自社に「パワハラ」が横行しており、これは問題だ。と認識してたとして、それを外部に話しするか? という点もあります。

ひとつは、それを言ったら応募がないことは明白ですから、言い難いですよね。

もう一つは、パワハラが問題だと認識して対策をしているケースです。それが「単に会議で注意している」など実効性が乏しい対策としても、「パワハラ対策はしている」と言いますよね。

これは極端な例ですが、会社の弱点を正直に言うのは、そんなに簡単ではありません。

その会社の長短は話だけでは伝わり難い

転職しようとしているのですから、すでに社会に出たことがある人です。
さすがになんでもかんでも自分にとって理想的な会社なんてあるはずが無い。というのは分かっているはずです。

三度「パワハラ」を例にしますが、正直に「うちの会社パワハラ体質なんだよ・・・」と伝えたとして、相手はどう捉えるか?

過去に自分が見聞きした、あるいは受けたパワハラらしきものから「大丈夫耐えられる」とか「そんなの無視すれば終わり」と考えるはずです。

パワハラという言葉からそれらしい行為は想像できますが、強度や深刻度まで想像つきません。

ほとんどの人は、話を聞いて、自分の過去の引き出しから類似案件を取り出して想像しているに過ぎないのです。

気にはなるものの確認できないと思い込んでいる

それでも勇気を持って説明するなり、質問するなりすれば良いと思いますが、ほとんどの人が「仕事の内容」や「人間関係」は入社してみなければ分からない。と思い込んでいます。

確かに、100%知れるか? というと無理と言わざるを得ませんが、よりベターな施策の積み重ねで、この大きなロスを減らすことは可能です。

企業の採用戦略に加える

社会規範は常に意識すべき

採用だけでなく、企業を存続させるための最低限の条件です。しかしこれが分かっていない会社や個人が多数存在します。

しつこく「パワハラ」を例に出しますが、今でも「理由があればパワハラは許される」という考えの人が少なからず存在します。
私もおっさんなので、その気持ちは分かりますが、そういう人には「理由があれば殺人は許される」と考えますか? と聞くことにしています。

当然ダメですよね? しかし昔はそれが許されていましたし、今でもそれが許される国がありますよね?

ここから分かるように、「パワハラはダメ」というのは社会がよりよく発展した結果なのです。であれば頑なに「理由があればパワハラは許される」はありますか?

何も社会の流れに全て合わせる必要はないですが、大きな視点で正しいものは抵抗せず変えて行きましょう。

採用も一緒で、以前は「採ってやる」だったものが「一緒に働こう」に変化しただけなのです。これって良い方向への変化だと思いませんか?

面接は雑談で結構

いわゆる形式ばった面接で何を知れるでしょうか?
私は何も分からないと考えています。そもそもたかだか30分から1時間程度形式的に話しして理解できるほど人間は単純ではないでしょう。

であれば、お互いのダメ自慢を言い合うでも良いでしょう?

私は採用のお手伝いで面接に参加するとき、その会社の欠点を事細かく説明するようにしています。
この方法、前項の3番目「その会社の長短は話だけでは伝わり難い」はクリアできませんが、結果は上々です。

そもそも、そんなことを言う会社はあまりないので、相手の信頼度は各段に上がります。

退職者からのフィードバックを生かす

そうやって対応して行っても、退職する人はいます。
実は、その退職者の本当の理由が、会社を改善するヒントなのです。

何故なら、退職する理由の3割が、「仕事の内容」や「人間関係」なのですから。

時に「退職」というのは、残念だし、怒りの対象になりますが、実は、その情報は自社の改善にもっとも有益なものなのです。

採用のアピールポイントとする

さて、こういう活動をした上で以下のようなことを採用時に明示したら如何でしょう?

  1. 退職の多くが「仕事内容」と「人間関係」としています。
  2. したがって、当社に就職してもらうに当たっては、当社の「仕事内容」と「人間関係を含めた社風」について時間をかけて説明し、納得の上で入社してもらいます。
  3. 具体的には、こういうプロセスを踏みます(上記の取組など)

大方の会社は、本当は大事な「仕事の本当の内容」、「人間関係」や「会社の雰囲気」に触れないのですから、それが分かるような採用をすれば採用勝ち組になれますよね?

採用におけるブランディングとはこういうことを言うのです。

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