中小企業が社内で人材教育をするのは大変ですよね。お金も時間もない。教える人はいない。
同業の中小企業を見回しても、どこも教育はしていないので、まぁやらなくてもいいか。となりがちです。
でもちょっと待ってください。誰もやっていないことをやれば、これが差別化です。
どのようなことでも差別化して、上手くアピールすれば、ビジネスに寄与しますし、「社内教育」は、人材採用には大きな効果が見込めます。
要は、お金も時間もそんなにかからない「社内教育」が出来れば、良いのですよね?
今回は、それをご紹介します。
中小企業の社員教育の状況
まずは、現状を見てみましょう。
中小企業の大多数が、社員教育はしていないしその気もない企業です。
これは私の実感に合致します。
2018年版の中小企業白書に「人材育成の取組」という項目がありましたので、それを見て行きます。
2018年度版「中小企業白書」第2部第3章第3節の2「人材育成の取組み」より
2018年度版「中小企業白書」第2部第3章第3節の2「人材育成の取組み」より
「OJTを重視する」及び「OJTを重視するに近い」の回答で大半が占められており、企業側がOJTを重視していることが示唆されている。
OJTが「うまくいっている」企業が行っていることとして、「とにかく実践させ、経験させる」が最も回答割合が高くなっていることが見て取れる。また、「仕事のやり方を実際に見せている」や「仕事について相談に乗ったり、助言している」については、OJTが「うまくいっている」と感じている企業の割合が、「うまくいっていない」と感じている企業と比較して高くなっていることが分かる。
引用:2018年度版「中小企業白書」第2部第3章第3節の2「人材育成の取組み」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/h30/index.html
それぞれ、図の解説として、上記のことが書かれていますが、これは的外れ。「仕事のやり方を実際に見せている」や「仕事について相談に乗ったり、助言している」というのは、普通の業務行為です。
教育について聞かれたから「普段の業務シーンをOJTです」と言っただけの「なんちゃってOJT」。実態は「教育は何もしていない」ということでしょう
では何故できないか?
2018年度版「中小企業白書」第2部第3章第3節の2「人材育成の取組み」より
これを見ると一目瞭然で、会社として教育する力がないのです。
第4位に「鍛えがいのある人材が集まらない」というのがありますが、いい人が来ないから教育できない? ロクに教育も出来ないからいい人が来ない? 微妙なところですね。
で、その結果、
「今後3年間の自己啓発支援費用を増加する企業の割合が増えていることが分かる。OFF-JTと同様に、人材育成・能力開発における自己啓発の必要性が高まってきていることが示唆されている。」
引用:2018年度版「中小企業白書」第2部第3章第3節の2「人材育成の取組み」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/h30/index.html
なんて言ってますが、これも間違いでしょう。現状、「実績なし」が99名以下の会社で50%超、「増減なし」にもそもそも何もしていないから増減なしと答える可能性がありますので、「減少した」「不明」を合わせると、99名以下の会社では90%超が「自己啓発費用支援は考えたこともない」し、「将来も増やす気はない」というのが正解でしょう。
まぁ、お金がないか、そんな所にお金を回す気がないかのどちらかでしょう。
差別化のチャンス
前項で「社員教育はしていないしその気もない」中小企業の現状を見てきました。
これは差別化のチャンスです。
ビジネスの要諦は、他との違いを明確にすること、そしてそれを顧客に伝えることですから、ほとんどの中小企業も「していない」「する気はない」分野があるというのは、差別化のチャンスと言っても良いでしょう。
しかもビジネス面だけでなく、採用面でも効果が期待できます。他社が「鍛えがいのある人材が集まらない」なんて愚痴をこぼしている間に、自社にとって良い人材を採用しましょう。
そもそも何もなくても「やらないよりやった方が良い」というのが社員教育ですから、プラスαで差別化出来て、ビジネスだけでなく採用にも効果があるのであれば、取組まない手はないですよね?
OJT教育だけで人は育つのか?
現実問題として、前述の「なんちゃってOJT」はともかく、中小企業ではOJTが教育の中心にならざるを得ないのが現実です。
では、OJTをしっかりすれば、人は育つのか?
それはなかなか難しいと言わざるを得ません。
以下、その理由を詳しく説明します。
- 再現性の低い「背中で育てる」
日本では昔から「背中で育てる」みたいな風潮があるし、それで一流になった人もいます。そういう人は、自身の経験則から「背中を見て育て」というのでしょう。前項で触れた「鍛えがいのある人材が集まらない」という言葉にそういう雰囲気を感じてしまうのですが、如何でしょうか?ある種の天才なんだと思いますが、企業活動を続けていくためには、再現性が必要です。
天才がいなくなった瞬間にその技術を失うようでは、企業活動の継続も覚束ないです。 - 私がいた会社のOJT教育の失敗
私が勤めていたIT企業は、以下の理由で、教育はOJTだけ。と断言していました。・仕事の中でしか自分の不足に気付けない
・自分の不足に気付かない限り教育することは出来ない
・そもそもプロの世界なのだから、自分の不足に気付いたら自分の責任で不足分を補うべきとまぁお題目としてはごもっともなんですが、現実は前述の「なんちゃってOJT」そのものです。
基礎教育もしないので、「そもそも自分の不足に気付けるほど、知識が備わっていない」人に、「自分で気付け」という無理難題を押し付けているだけですから、多くの人は気付かない。
いつまで経ってもそのままです。このことから私が得た教訓は、最低限の知識習得はOff-JTせざるを得ないということです。詳しい顛末に興味のある方はこちらをご覧下さい。
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Off-JTが必要なとき
前項で述べた通り、OJTをベースにして、必要に応じてOff-JTを組み込むというのが、現実的手段となります。
「背中で育てる」も「仕事の中で自分の不足に気付け」も、悪くはないのですが、それだけでは必要スキルをカバーできません。その部分にOff-JTを適用するということです。
対象の能力の問題もありますので、以下の点を注意しながら、OffーJTをどこに適用するか検討すると良いでしょう。
最低でも自分で何が不足か気付ける程度の知識習得を支援する
よっぽど素質に優れた人であれば、なんでも自分で気付くでしょう。しかしそんな人は少ないし、今の日本でそういう人が中小企業に入社するのは奇跡に近いです。
中小企業に入社するのは、良くて普通の人でしょうが、普通の人であれば「自分で不足に気付け」ば、自ら勉強して成長する可能性はあると思います。
そのきっかけくらいは用意してあげましょう。すなわち自分で判断できるくらいまでは、基礎的な知識は身に付けさせてあげる。ということです。
その人の性格に合った教育機会を提供する
端的に言えば、その仕事にマッチした素質があれば、放っておいても成長します。「俺の背中を見ろ!」でも「自分で勉強せよ!」でも好きにやればいいのです。
それ以外の人を「鍛えがいのある人材が集まらない」と切り捨てても企業がやっていけるのであれば、それで構いませんが、現実はそんな甘いものではないでしょう。
素質面で劣る人や理解の遅い人でも何とか戦力として育成しなければならないはずです。この場合、Off-JTの比率をあげた方が上手く行きます。
OJTに合った分野、Off-JTに合った分野
一般論としてOJTに向く分野とOff-JTに向く分野がありますので、参考にしてください。
- 理念や社風は一部OffーJTですが、多くはOJTでいいでしょう。というより、この分野は日々の仕事との繋がりが感じられなければ、単なるスローガン、綺麗ごと、お題目で終わりますから、経営者自ら、それこそ背中で見せる分野です。
- 自社の特有な技術は、OJTの方が合っているでしょう。
しかし、「自社の特有技術」に関わる汎用的な技術や知識は、自己啓発を含めたOff-JTでなければ身に付きません。
そして、汎用的な技術や知識が無ければ、今自分がやっている「自社の特有な技術」の本質が理解できず、やることになっているからやっている、惰性でやっている、慣れでやっているだけで、身に付いた状態とはとても言えません。 - 前述の通り「背中で育てる」タイプの人は「習うより慣れろ」と言うと思いますが、万事がそれでは時間ばかりかかって効率が悪いです。
また、実は本人は理解出来きておらず、やり方だけ覚えるだけかもしれないのですが、その状態であることを周囲が知る術がありません。
仮にこの状態であれば、条件が少し変わっただけで再現できなくなります。企業にとって、これは致命傷です。
「習うより慣れろ」というOJTと、Off-JTで理論や理屈を知る。というのを行ったり来たりするのが理想です。
お勧めはオンライン教育
ただ、いざOff-JTをやると言っても、社内に講師が出来る人はなかなかいないし、いても忙しくて対応できない。
外部の民間セミナーや公的なセミナーを探すものの、民間は結構高いし、公的なものはいまいちマッチしない。遠かったりしてめんどくさい。では講師に来てもらおうとなるとコスパが悪い。
ということで断念する会社も多いと思います。
しかし世はオンラインの時代です。
ちょっと前からオンラインの教育が出始めています。
実は内容はまだまだなのですが、今後充実して行くと思うので、今から試してみる価値はあると思います。
代表的なサービスを紹介します。
- グロービズ学び放題
企業向けの有料オンライン教育サービスです。戦略立案、会計、マネジメントなどが中心ですので、製造や技術の教育には不向きかと思います。
https://hodai.globis.co.jp/ - JMOOC 無料で学べる日本最大の無料大学講座
無料で、大学レベルの教育を提供しています。
製造や技術系のカリキュラムもありますが、大学なので少々レベルが高いかもしれません。
https://www.jmooc.jp/ - 無料で学べるビジネスセミナー動画 Seminar Shelf
企業主催のセミナー動画を提供しています。
https://seminarshelf.com/ - こくちーず
いろいろな分野の専門家が、自身が主催する教育を告知するサイトです。オンラインに特化しているわけではありませんが、ZOOMなどでのオンライン教育もあります。
内容は多種多様、というより玉石混合という感じですが、マッチする教育が見つかるかもしれません。
https://www.kokuchpro.com/
助成金の対象になることもあります
厚生労働省の「人材開発支援助成金」という制度があります。
以前は対面教育のみが助成対象だったのですが、今はリアルタイムのオンライン教育であれば助成対象となる可能性が高いです。
遠隔講習であっても、一方的な講義ではなく、講師から現受講中の受講生の様子を見ることができるとともに質疑応答等ができる形態(同時双方向)で行われる OFF-JT 訓練については、助成対象になります。一方的な講義でなく、同時双方向で行われたことがわかる資料を支給申請のときに添付してください。
引用:令和3年度版人材開発支援助成金事業主様向け Q&A「A9」(一部抜粋)
詳しくは、厚生労働省のHPの「人材開発支援助成金」のページを参照ください
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
自社でやってみては?
紹介したオンライン教育サービスを見ていただくと分かると思うのですが、内容は偏っています。マーケティングとかリーダシップなどが多い。
「これじゃうちでは使えないよ」という意見が大多数となることでしょう。
内容が偏っている原因の1つは前述の通り、まだ立ち上がり段階だからでしょう。
そしてもう1つは、この手のテーマがオンラインでやり易く、オンラインで講師をしたい人たちにとっては手っ取り早く始めやすいものだからだと思います。
一方で、世間にはいろいろな分野の専門家は山ほどいるはずですが、そういう人はオンラインで講師をしようとは考えていない。
ここにギャップがありますので、このサービスが一般化するまではまだまだ時間がかかりそうです。
では、どうするか?
自社をリタイアした人たち、税理士など関係している専門職、取引先などにオンライン講師を依頼してみては如何でしょうか?
特にリタイアした人たちにとっては、自分の知識を後輩に伝えるのは、生きがいに繋がることにもなり、社会性もあります。
「社内教育」だけでも他社との違いがある上に、それが社会性のある取組みであれば、それは自社のブランドとして確立し、ビジネスや人材採用への波及効果はさらに高まります。
私がIT企業に勤めている時、自社の採用(新卒採用のみですが)を主導する立場にありました。皆さんもご存知と思いますが、従業員100名~200名の中小IT企業なんて、掃いて捨てる程世の中には存在し、一応は成長産業なので、どこの会社でも採用に[…]
そのうち中小企業白書に事例として載るかもしれませんよ!
以下余談です。。。
実は、私は「もっと実務寄りのオンライン教育」をするプラットホームを構築できないものか?と数年前からいろいろ考えています。
まぁやることは大体固まっており、今は、私の考えを実践できる場を探しているところです。
ということで一緒に如何ですか?
自社でオンライン教育を立ち上げるノウハウから補助金関連まで全て可能です!