新規採用した社員への教育成果があがらない時の対処方法は?

せっかく苦労して採用をしたのに、期待通りに育たないなど、成果が挙げられないケースが多々あります。そのような場合、どのように対処したら良いでしょうか?

即刻解雇? と短絡的に考える人も居ますが、普通はそんなことは出来ません。
もちろん法的な制約があるのですが、それ以前にそんなに都合良い人が来るわけがないのが当り前。気に入らない人をいくら排除しても、都合の良い人が来る保障はないのです。

では、どうしたら良いか? 考えて行きましょう。

まずは、前段の「採用」について少し考えてみましょう。

そもそも「優秀な人」が沢山いると思いますか?

多くの企業が、「いい人」「優秀な人」という曖昧さをベースに採用しています。
人事部があるレベル(まぁ大企業でしょう)では、もう少し具体化しようとするみたいで、以下のような定義を見つけました。

  1. チャレンジ精神(変革する力、バイタリティ)
  2. チームワーク力(共感力、チーム志向)
  3. コミュニケーション力(論理的思考、伝える力)
  4. リーダーシップ力(周囲を巻き込む力、主導力)
  5. 主体的行動力(自律的アクティビィティ、やりぬく力)
  6. グローバル素養(異文化受容力、語学力)

引用:プレジデントオンライン2015年3月11日「人事部の告白! 有力企業が欲しい人材『6つの能力』

一見して「告白している人事部の人でも、この能力の中の一つでも持っている人は何人いますか?」と問いたくなるくらい、高い要求水準ですよね。

このように、「実は『欲しい人材像』の定義がされていない」というのが普通だし、仮に定義されていると主張している企業(全然定義されているようには見えませんが)でも、「そんな人材滅多に居ないですよね?」と思うような人材像なのです。

そもそも試験や面接では分からない

採用においては、仮に人材像が明確になっていたとしても、応募者がそれに合致するか? ということを試験や面接で見極めることは困難です。

試験や面接で応募者と会う時間はせいぜい1時間から2時間。
男女のお付き合いで言えば、せいぜいお見合い、あるいは合コンレベルです。通常は、そのような機会はお付き合いの取っ掛かりですので、そこから時間をかけて相手を理解して行くということになるでしょう。
お見合いや合コンの例を持ち出すまでもなく、1時間や2時間程度の時間で、相手の能力や特徴、得意不得意を見極めることは出来ないです。

それを前提として考えた場合、やはり入社後に「教育」することを考えるのが一般的なのです。

では、「教育」は?

前項までで、採用について見てきました。簡単に整理すると、以下の2点に集約されるでしょう。

  1. 企業が望む、漠然とした「いい人」「優秀な人」はそもそもいない。
  2. 試験や面接では、その人「いい人」「優秀な人」かどうか分からない。

これは動かし難いことです。したがって、この2点を前提として、社員への「教育」の方法を考え実施した方が、効率が良いのは自明のことです。

しかし、2018年版の中小企業白書を見る限りでは、現実は、以下の通りです。

2018年中小企業白書 第2部「深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命」 第3節「人材育成の取組」より

人材育成・能力開発を行う際に感じている課題を企業規模別に確認したものが第2-3-21図である。規模が大きくなるほど、「指導を行う人材が不足している」といった、教える側の人材不足の課題を抱える企業の割合が高くなっている。他方で、規模が小さくなるほど、「鍛えがいのある人材が集まらない」といった、教えられる側の人材不足の課題を抱えている企業の割合が高くなっていることが見て取れる。ひとえに人材育成・能力開発における課題といっても、規模によって、抱えている課題に違いがあることが分かる。

引用:2018年中小企業白書 第2部「深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命」 第3節「人材育成の取組」

「人材育成・能力開発を行う際に感じている課題として、『鍛えがいのある人材が集まらない』といった、教えられる側の人材不足の課題を抱えている企業の割合が高くなっていることが見て取れる。」

と、あっさり書いてありますが、これこそが問題の本質です。

前述の通り、自社に必要な人材像を明確に出来ず、単に「いい人」「優秀な人」という基準とも言えない曖昧なもので採用をする、しかも採用プロセスにおいては、応募者がどんな特徴を持っているのか、ほぼ分からないにも関わらず、「鍛えがいのある人材が集まらない」から教育できない。
と言っているのが、一般的な中小企業の姿ということです。

「ロクな奴が集まらない」と言いたいのでしょうが、第三者として客観的に見れば、「ロクでもない」のはどちらか? 無いものねだりしている企業側でしょう。

育成計画抜きでの採用はあり得ない

まぁ、「鍛えがいのある人材が集まらない」と言いたくなる気持ちは分かります。
しかし、しつこいですが、そんな人は滅多に居ない。と考えるべきです。では、どうするか?

まずやるべきは、「欲しい人材像」の定義です。

「企業が望む、漠然とした『いい人』『優秀な人』はそもそもいない」のですから、漠然と考えるより、具体的に考えるべきです。

前述の通り、企業において人材像が明確でない。というのは、採用だけでなく、教育を行う上でも致命的です。「どんな社員になってもらいたいか?」が無ければ、「その人のどこを見て採用を決めるか?」「どんな教育をすれば良いのか?」が出てくるはずがありません。
そんな状態で、「鍛えがいのある人材が集まらない」と言っても何ら解決になりません。単なる愚痴です。

だから、「欲しい人材像」の定義をまず始めましょう。

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期待通り育たない理由

やっとここから本題なのですが、「欲しい人材像の定義」をして「採用計画」と「人材育成計画」を作って、一生懸命教育をしても、なかなか育たないケースがあります。
というより、想定通り育たないというケースの方が多いかもしれません。

何故かというと、「人」だからです。
再び男女の関係を例に出すと、出会った後、時間をかけて相互理解を深め、それなりの覚悟をもって結婚した人たちでも、その後「性格の不一致」が理由で離婚することが少なくありません。

ここから考えると、結局は、他人のことを理解するのは不可能だし、思い通りに育てることも難しいことなのです。

したがって、それを前提に対処して行きましょう。

既に「期待」というのは、曖昧なものではなく、「欲しい人材像の定義」「採用計画」と「人材育成計画」で定義されているはず。

基準があれば客観的に見ることが出来ます。期待通りにならない原因は、ほぼ二つでしょう。

  1. 能力が見合わない
  2. 社風に合わない

以下、それぞれの対処方法を見て行きましょう。

能力が見合わない場合の対処

そもそも絶対的能力が低いといのは稀。長所と短所があって当り前です。
一般的には長所を生かせ。と言われますが、多くの場合は、これも「いい人」同様「なんとなく」そう言っているに過ぎないです。
ビジネスをしているのですから、そもそもの自社の経営計画で示されたビジネス形態にマッチする長所を持ち合わせているのか?という問いが最初です。

で、どうも今考えているビジネス形態にマッチしそうにない。となれば次に考えるのは、以下の二つです。

  1. 現実として、自社で集められる人材のレベルはこの程度ではないか? という問い、その答えが、その通りというのであれば、元々の経営計画に定めたビジネス形態の修正をするべきです。
  2. 採用時点では、その能力を見誤ったのであれば、それはある意味お互いさまです。解雇するなら、早めの方が良いでしょう。
    しかし、日本という国の習慣や、メンタリティーには、早めの解雇は馴染まないのも事実です。場合によっては次の採用に影響することもあります。

次の採用云々は置いておいて、我々はやはり日本人ですので、心情的に早めの解雇と思いきれないのもあるでしょう。
因みに「能力的に自社に合わない場合、早めに解雇してあげた方が、別の所でのチャレンジが出来るので、合わないまま雇用し続けて、中高年になって止む無く解雇するよりはよっぽど親切」と言うこともあり、私個人としては、そっちの方が論理的と考えますが、そうは言っても情として忍びないという気持ちも分かります。

そこで現実的な選択は、配置転換です。
今考えているビジネス形態に能力がマッチしそうにもないとしても、会社にはいろいろな仕事がありますので。

配置転換に当たっては「比較優位」で考えましょう。

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簡単に言えば、ある仕事をAさんがやるより、より能力が低いBさんがやれば、Aさんは他のもっと生産性の高い仕事に専念できるので、全体の生産性が高くなる。ということです。

繰り返しますが、そもそも絶対的能力が低いといのは稀であり、皆それぞれ長所と短所があって当り前なのですから、意外と配置転換がハマるケースは多いです。

また、最終的に解雇せざるを得なくなったとしても、双方努力はしたのですから、その時のストレスは少ないです。

社風が合わない場合の対処

そもそも能力があって、社風が合わないのであれば、対処は二つです。会社が変わるか、辞めてもらうか? です。
それなりの理由があって、辞めてもらうという選択をした場合、能力を発揮できるような仕事をしてもらって、あとは静観すれば良いと言えます。社風がどうしても合わなかったらいずれ辞めるでしょうから。

一方で、単に「社風が合わないから辞めてもらう」というのは、「鍛えがいのある人材が集まらない」同様、短絡的に過ぎるとも言えます。

どうせなら、社風に合わない人が入社した。という局面を「社風改革」のチャンスと捉えるべきと私は考えます。

そもそも、絶対的社風なんてあるわけないですから(仮に社内の人間が「当社の社風は絶対」と考えているとしたら、「内集団バイアス」を疑うべきです)、社会環境の変化に合わせて常に改革をするべきです。

採用プロセスで「合わない」を見分ける

最後に、採用段階において、可能な限り「合わない」を見分けるにはどうしたら良いか? です。

最初に書いた通り、短い時間で行う面接や試験で、相手の特徴を知るというのはまず不可能なのですが、「合わない」を見つけられる確率が上げることは出来ます。

何をするか?

しつこいですが、「欲しい人材像の定義」をして「採用計画」と「人材育成計画」を作成すること、そしてそれを日々改定していくことに尽きます。

今まで述べてきた通り、採用というのは、難易度の高い仕事です。
その難しい仕事に臨むに当たって、「いい人」「優秀な人」という曖昧なものを拠り所にするというのは、はっきり言って愚かなことです。

「欲しい人材像の定義」をして「採用計画」と「人材育成計画」を作成したとしても、「合わない」を見分けることは依然難しいことですが、無いよりマシ。その上、失敗をフィードバックして行けば、普通は確率が上がるのです。

ビジネスの場面では、「いい製品」「優れた商品」なんて曖昧な基準でやったら失敗するのは明白です。同様に、「採用」や「人材育成」も曖昧な基準では失敗するのです。

会社は商店じゃない。
組織を作り「会社」を作ること 採用はそのスタート地点

「求人しても集まらない。面接に来たけど全然マッチしない。入社したけど1ヶ月で退職してしまった。」こんなことの繰り返しで、ずっと]採用活動を続けている。そんなことありませんか?

「曖昧な定義で“戦力”になりそうな人を探す」より「“戦力”を定義し」、「組織を作り」、その上で「自社にマッチした考えの人を採用し」、「育て」、「戦力にする」と視点を変えてみましょう。

これすなわち経営。採用活動こそが最初に経営の力が試される場なのです。