振返ってみると、私が新卒から29年所属した職場は「心理的安全性」の高い職場でした。
もちろん、当時は「心理的安全性」という概念は無かったのですが、自分の考えを自由に発言できたし、それを行動にうつすこともできる職場で、本当に居心地の良い職場でした。
しかしながら、その職場のその後の経緯を見ていると、「心理的安全性」というの理想的だが、その概念を導入したり、その状態を維持したりしてくのは、思いのほか難しいと感じています。
しかし、やりようはあります。その鍵を握るのは総務部のような間接部門だと考えています。
なんと言っても一時的にせよ、そして無意識にせよ「心理的安全性」の高い職場を実現し、一時期私を幸せにした職場は、総務部だったんで。
心理的安全性とは
まずは心理的安全性について簡単な説明をします。
(書籍も出ていますし、ネットにも多数掲載されていますので、詳しく知りたい人はそちらで調べることをお勧めします)。
心理的安全性は、チームのメンバーがそれぞれ不安を抱えることなく、自分の考えを自由に発言したり、行動したりできる状態を言います。
グーグルが「効果的なチームを可能とする条件は何か」を見つけ出すために行った「Project Aristotle」(プリジェクト アリストテレス)において、「心理的安全性が圧倒的に重要な要素である」と結論付けたことで、世間の注目を集めるようになりました。
心理的安全性を高めることにより、以下のメリットが期待できます。
- 情報やアイデアの共有が盛んになる
- 各人のポテンシャルを最大化できる
- ビジョンが明確になる
- 定着率が高まる
私が体験した「心理的安全性」の高い職場
最初に述べた通り、私もこの「心理的安全性」の高い職場に居たことがあります。
本当に何でも言える雰囲気だったので、情報共有は普通。新しいアイデアもバンバン出る。
会社のビジョンを意識して仕事をするので、その理解も深まるし成果も出る。
もちろんビジョンに合わない仕事は「おかしいのでは?」と声を上げることが出来て、役職に関係なく議論して、それをやるにしてもやらないにしても「こういう理由で」というのが明確でした。
そんななので成果も出やすい。多分自分の実力以上の成果が出てたと思います。
そして、成果が出れば、仕事にやりがいを持てる。それが次の成果に繋がる。
そんな居心地の良い職場だったので、当時は退職なんて考えたこともなかったです。
もちろん、当時この「心理的安全性」という概念はなかったのですが、今振り返ってみると、私を含め職場のメンバーは良い状態だったと思います。
しかし、ある時からこの職場から「心理的安全性」は無くなり、最終的にはこの職場は崩壊しました。
理想的ではあるけれどなかなか難しい?
実際体験した者として言えることは、「心理的安全性」は、理想的ではあるけれども実現は難しいということです。
何故かと言うと、「心理的安全性」を高めるというのは、職場環境の問題であり、マネジメントの課題ですので、会社のトップやマネジメント層の能力や考え方に依存するからです。
実際私が体験した「心理的安全性」の高い職場を作ったのは、当時の上司だし、それが無くなり崩壊した時もその人の行動、言動に依るところが大きかったと思っています。
前述のグーグルの、“Google re:Work”「『効果的なチームとは何か』を知る」というサイトには、ワークショップで取り上げたシナリオの例があるのですが、それは「心理的安全性」の高い職場が崩壊して行く前に件の上司が取った行動に驚くほど似ています。
心理的安全性のシナリオ | アイデアとイノベーション
技術的な専門知識に精通するAさんは、長年にわたりマネージャー職を担当しています。この 2 年間は、大規模プロジェクトの運営を担当する XYZ というチームのマネージャーを務めてきました。Aさんは、もともと要求水準の高い人物でしたが、ここ数か月は、ミスやありきたりなアイデア、自身の考え方にそぐわない出来事を受け入れない不寛容な側面が目立つようになっていました。
先日Aさんは、経験豊富なチームメンバーが提案したアイデアを皆の前で厳しく非難し、さらに本人のいないところで辛らつな批判を繰り広げました。Aさん以外のメンバーは皆、このアイデアには説得力があり、裏付け調査も十分で、試してみる価値はあると考えていたにもかかわらずです。この出来事の後、メンバーからアイデアが提案されることはありませんでした。
Aさんのアイデアが採用された新しい企画書は、創造性と新規性に欠けるという理由で、最終的に経営陣から却下されました。
引用:Google re:work 「効果的なチームとは何か」を知る
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/introduction/
件の上司は、かなり優秀だったと今でも思いますし、個人的にも信頼してたし、尊敬もしていました。しかし、ある時から変質したと感じるようになり、それと同時に信頼出来なくなり、非常に居心地が悪くなったことを覚えています。
このように、同じ上司でも変わってしまうことがあり、単にその上司が変わったことだけで「心理的安全性」を失う。ということがあり得るのです。
結局は上司次第
元々優秀で尊敬も集めていた上司が、ちょっと行動が変わっただけで居心地が悪くなるのですから、それほど優秀でない上司が職場の「心理的安全性」を高めるのは難しいと思います。
何故かというと、上司には以下の能力が求められるからです。
- 自己肯定感
そもそも自分を肯定できていなければ、他者も肯定できないでしょう。
そんな人が、「チームのメンバーがそれぞれ不安を抱えることなく、自分の考えを自由に発言したり、行動したりできる状態」を作ろうと思うことは無いでしょう。むしろ、発言や行動を抑え込み、コントロールしようとするはずです。 - 問題発見力
現状を見て、どうも自分のチームは活気がないな。とか、新しい取組みが生まれないな。など「これは問題じゃないか?」と思わなければ、それを改善しようとは思わないでしょう。そもそも問題だと思っていないのですから、「心理的安全性」という概念を調べようとも思わないでしょう。 - 理解力
従業員が、「自分の考えを自由に発言、行動」しても、それを理解できなければ話になりません。
人間は往々にして自分が理解できないものは否定します。意味が分からない否定ですから、根拠を示せません。
根拠のない否定をされれば、誰も発言しなくなるし、行動しなくなるでしょう。 - 気軽に試してみようと思う性格
問題を発見できて、有用かもしれない対策を見つけたとして、それを導入する勇気があるか?
という問題です。失敗は嫌ですものね。「面白そうだから試してみようか?」「失敗したらその時考えればいい」くらいのノリの人の方が良いと思います。 - 古い価値観を捨てられる
そもそも、「チームのメンバーがそれぞれ不安を抱えることなく、自分の考えを自由に発言したり、行動したりできる状態」というのは、従来からある上司の既得権を侵害する可能性があります。
本来、大きな枠組み(例えば「会社が発展する事」)の前では、上司の既得権なんか無用の長物なのですが、そう考えられない人も多数存在します。
ということで、これらの能力を兼ね備えている人はそうそういないので、仮に会社のトップが「当社も『心理的安全性』を高める取組みをしよう!」と号令をかけても、有形無形の抵抗に遭って、そのうち消えてしまうでしょう。
小さいグループで実績を作る
では、手は無いか?というと、あると思っています。
会社レベルではなかなか難しくても、ある職場レベルで「心理的安全性」を高める取組みであれば、条件次第で可能でしょう。
その条件とは、「気軽に試してみよう」と思える職場か?ということです。
で、割と総務部がこの条件に合致するのです。
- 総務は会社全体の職場環境を良くする立場である
- 同様に総務はメンタルヘルスも気にしなければならない立場。どんなに鈍い人でもメンタルヘルスはなんとかならないか?というのは思っているはず
- 以上2点から、総務部は、知識として「心理的安全性」を仕入れる立場となる
- 職場環境改善やメンタルヘルス対策から、自ら取組むと宣言しても、誰も反対しない。陰でバカにするだけ
- 仮に上手く行かなくても、影響は社内に留まる
- 上手く行ったら、ノウハウとして、展開する立場にある
以上から総務部門が実践するというのが一番良いです。
知見を徐々に広げて行く
「心理的安全性」の取組が上手く行ったら、ノウハウとして、展開する立場にあると書きましたが、実際には、ノウハウを展開し「みんなやろう」と言ってもなかなか広まりません。
古い価値観に毒されたマネジメント層というのは分厚いです。
こういう取組は、小さいひとつの成功を積み重ねる。
総務部門が成功し、ノウハウが構築できたら、それを受け入れられるところを探し、適用して行くのです。
受け入れやすい職場とは、すなわち「自己肯定感」「理解力」「気軽に試してみようと思う性格」「古い価値観を捨てられる」マネージャーがいる職場です。そのような職場に予めアタリをつけて、徐々に広げて行くのです。
イノベーションは辺境から起こる
良い案なのだが、社内での展開が不味かったので定着しなかった。ということが山ほどあります。そういう取組みは、大抵上司を説得して(場合によってはその上も説得して)、会社全体の合意形成をした上で、取組むという段取をしているように思います。
しかし、「心理的安全性」なんて、既得権者から見ると劇薬なので、表面的はともかく内心は反対なんて人がいるのは当然。
そして、人間は例え上司の命令であっても内心反対であれば、積極的に取組もうとはしません。それこそ心理的安全性を手に入れ、喧々諤々の議論を経た後、方針として決定されれば、大方の人は取組むこともある(これは卵が先か鶏が先かの話なんで議論することは無意味ですが)でしょうが、それでも消極的なサボタージュというのはあるでしょう。これは善悪というより、気が乗らないということでしょうから。
そんななんで、イノベーションは、ひっそりと目に見えないところで始め、小さい成功を積み重ねて、気付いたら抵抗できないレベルまで持っていくというのが、成功し易い方法であると思います。
そう言った意味で、総務部というのは、会社組織という意味では中核ですが、ビジネスという意味では辺境です。
会社組織の中核という点は、会社の問題に気付き易く、各部門の特徴も把握し易い。
ビジネスでは辺境なので、上記の問題に対処すべきイノベーションを起こしやすい。そしてそれが上手く行かなくても誰も気付かない。
そういう部署ですから、やる気があれば、面白いことが出来る部署。
そして社内のみんなから頼りにされる部署になる可能性も高いのです。
総務部門は地味です。しかし、総務分野を担う部門が無いと困るという存在です。地味でありながら必要な仕事を担うということで「縁の下の力持ち」と表現されたり、現場を始め社内で分からないことがあると、全て振られることが多いので「なんでも屋」とも[…]