中小企業の総務部長に必要なバランス感覚の磨き方

以前書いた「総務部長の役割、仕事内容、素質とは?」の中で、総務部長にはバランス感覚が必要と書きました。
改めて自分自身の経験を振返ってみると、本当にこのバランス感覚は重要だと感じています。

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従業員がごく少ない企業は別として、中小企業でも50名や100名ぐらいの規模にあると、人と人の関係も複雑になって行きますが、それを上手く捌くのが、経営者であり、総務部長です。

経営者や総務部長にバランス感覚がないと、複雑な人間関係がさらに拗れることもしばしば。私はそういう事例を幾度となく見てきました。

さて、そのバランス感覚は誰でも磨けるものでしょうか? 私は、日々の心構えひとつで磨けると思っています。今回は私の経験や見聞きした事例から、「こう考えればバランス感覚が磨けるのでは?」というポイントをお伝えしようと思います。

なお、タイトルでも本文でも「総務部長」と表現していますが、管理職・マネージャーであればどの役職でもバランス感覚が必要ですから、総務部長でなくても参考になるかと思います。

また、すでに管理職やマネージャーとして経験豊富な方より、これからそういう役職につく人の方が役に立つかもしれません。

会社を知る

新卒入社でも中途入社でもとにかく会社を知ることが大事です。

結局、バランス感覚に優れている。というのは、会社の目指しているものや、文化と社員個々の考え方や会社に対する思いのギャップを調整する能力に長けている。ということです。
したがって、まず対象の考えを理解しなければならないです。そして実は、それを理解さえすれば、大抵のことは対応できるのです。

会社というのは、合理と不合理が相まって成立しているもの。表面的なことより、何故そうなったか?を理解することです。

「バランス感覚≒周囲への洞察力」と言っても過言ではありません。

会社の理念やビジョンを知る

そもそも理念やビジョンは、「どんな会社でありたいか」という社長(経営者)の意思表示です。
会社によっては明示していないケースもありますし、小さい会社では明示する必要もないでしょうから、理念やビジョンそのものの有無より、社長(経営者)が、自分の会社に対してどのような思いでいるのかを知りましょう。

また、一応理念やビジョンを掲げていても、以下のような場合はお題目化します。

  1. 理念やビジョンと目先の仕事の関連が想像できない。又は全く関連がないと感じられる
  2. 理念やビジョンしかなく、それに基づく下位概念や具体的な行動規範がない。判断の拠り所が理念やビジョンなどの上位概念だけである
  3. 社長(経営者)が理念やビジョンは社員を拘束するもので、自分は対象外と考えている

理念がお題目化しているということは、経営に芯が通ってないと言えます。こういう会社は、社員の定着率も悪く、将来性も怪しいと感じますが、ここではその是非は置いておきます。

自分が所属する会社が、理念やビジョンがしっかりしている会社か? そうでもない会社か?ということを知るということは、総務部長の職務を遂行する上で重要なことです。

文化を知る

文化というの一般的には不合理です。
ある目的を達成するために作られた制度が、外部要因の変化で不要になった上に、そもそもの目的も忘れられ、制度そのものが目的化したのが「文化」ですから。

疫病退散を目的として始められた「お祭り」がコロナ禍で中止。「コロナが終わったらまたやろうね」となるのは、まさしく外部要因の変化(お祭りでは疫病は退散できない。むしろ密になって危険という知見が定着した)で、お祭りが目的に合致しなくなりました。それでもコロナが終わったら再開する。というのは、それ自体が目的化しているということです。

会社でもこの手のことが多々あります。
例えば、会社の飲み会や社員旅行は、日本がまだ貧しく娯楽が少なかった時代には、会社が娯楽を提供し、結果社員が会社の良い感情を抱き、帰属意識が高まる。という意味がありました。

しかし、社会全体が裕福になり、何も会社に娯楽の提供をしてもらわなくても楽しめることが多数存在する現在では、その意味を失いました。その上、会社への帰属意識は必要なのか? という点も疑問があり、目的・手段とも不合理な「文化」となった典型例です。

個人は、論理的に考える人と、論理は苦手で感情で判断する人がいます。
上記のような「文化」が多く残っている会社には、後者の人が多いと判断して差し支えないでしょう。

念のためですが、これは善悪ではなく、そういう社風であるということです。

バランス感覚という意味では、害のある文化は捨てるのは当然ですが、それほど害のない文化は、感情で判断する人に配慮して残すということも必要です。

経営者・上司を知る

「理念やビジョン」と「文化」で会社のことは凡そ分かりますが、経営者や上司個人の考え方と、会社の「理念やビジョン」や「文化」が違うケースがあります。

「理念やビジョン」のところで述べた「理念のお題目化」がその最たるものですが、そうでなくても日常業務では「理念やビジョン」矛盾が発生することもしばしばあります。理想と現実のギャップというべきでしょう。

そういう時に、経営者や上司がどういう判断をするかを知っておいた方が良いです。

具体的には、経営者・上司と対話を繰り返すこと。特に日常業務においては、相談を多用し経営者や上司の判断基準や考え方を知ることが重要です。

なお、若いときには、目的と論理で考えてた人が加齢とともに、感情で判断するようになることがあります。
これは、経営者は、本来の性質から離れて「経営者」という役割を理性で演じているケースがあることが原因のひとつと考えられます。
彼らは当然社員より情報も多いし、その役割上大きなことを考えざるを得ないので、一見目的と論理で考えているように見えます。しかし実は感情で考えるタイプだったということです。
これは、加齢により「理性の頸木」が緩むから起こることです。

総務部長は、こういうケースにも対処しなければならないのですから、日々、経営者・上司と対話を怠らないことが重要です。

社員(同僚)を知る

社員は会社の理念や文化、経営者や上司に対して、どういう考えなのか?を知ることも必要です。
「理念やビジョン」がしっかりしていて、経営に一本筋の通った会社であれば、社員も自社に愛着と誇りを持っていることでしょう。

逆に、「理念やビジョン」がお題目化していれば、単に生活のために働いていると考える社員が多数というケースが考えられます。

今ある社内の文化に対してどのような考えを持っているか? を調べるだけで、論理的に考える人が多いのか? 論理は苦手で感情的な判断をする人が多いのか? 概ね分かると思います。

以上、4つの要素について「知る」ことを述べましたが、世の中も変化しますし、組織も人間も変化しますので、一回知ったから終わりではなく、日々アップデートすることが必要です。

「知った」を生かす考え方

前項の最初に「バランス感覚≒周囲への洞察力」と書きましたが、会社を知れば、通常はどうすれば良いかは想像がつくはずです。
それが出来ないのは、知る事を怠るでなければ、以下のどちらかです。

  1. 知ったことをなかったことにする
  2. 知ったことが許せない

実際「会社の理念やビジョン」「会社の文化」「経営者や上司」「社員(同僚)」について知っていくと、矛盾がいっぱいだということに気付くでしょう。

会社のそもそも理念やビジョンは、「どんな会社でありたいか」という社長(経営者)の意思表示ですから、理念・ビジョンと経営者の普段の考えに矛盾はないか? といえば普通に矛盾してたりします。
最初に書いた通り、「会社というのは、合理と不合理が相まって成立しているもの」なのです。

また、論理的に考える人が少数派で、感情で判断する人の方が圧倒的多数派である。ということにも気付くと思います。

この現実を目の当たりにして、事なかれ主義に陥って思考を止める、あるいは会社そのものに嫌気が差して、会社を辞めることを考える。というパターンに多くの人が陥ります。

でもこう捉えた方が良いでしょう。

実は、大多数の人が論理的に考えられるのであれば、調整は不要なのです。調整が不要であれば、総務部長がバランス感覚を磨く必要はありません。

大多数が「感情で判断する」から調整が必要であり、バランス感覚の優れた人が必要になるのです。

多かれ少なかれ「矛盾」や「不合理」が存在するのが組織ですから、前段で紹介した「知る」というプロセスは、その「矛盾」や「不合理」がある前提で、その度合を測るために行うのです。

では、どう考えて行けば、「知った」を生かせるでしょうか?

自分にとってどうか?

ちょっと本題と外れますが、「知ったことが許せない」というのは良くあることです。
それは論理的でない。というのはその通りですが、感情があるから人間なのです。それは否定できません。

いろいろな考え方があると思いますが、まずは自分を第一に考えましょう。①会社そのものの半分が同意できて、②残りの半分の半分(25%)同意できなくてもまぁ許せて、③残り25%が無視できて、④死んでも嫌というのが一つもなければ、何とかやって行けるはずです。

もしこの条件に合致しなければ、会社を去った方が良いです。

なんとか条件がクリアになって、会社に居ようと決断したのなら、上記②・③については「私はそれを好きではない。しかしあなたがそれを好きなのは認めるのは妨げない」が基本姿勢とすべきです。

運命共同体としてどうか?

あえて運命共同体という言葉を使いました。
会社というのは、そこに所属する人たち全てが運命共同体という側面を持っています。

運命共同体の仲間の大多数が幸せになるのであれば、不合理で矛盾だらけで、論理的でない人ばかりでも、それを上手く調整しようという気持ちになりませんか?

結局は、そういう気持ちになるか? ならないか? という点が大切なのです。

分からなくなったら会社を超える概念を確認する

時には社内の不合理で矛盾、多数派の感情の渦に巻き込まれて判断ができない。という事態に直面します。
こういう時はどうしたら良いでしょうか?

私もこういう事態に直面して悩んだことがあったのですが、ある時以下の記述を見て、納得しました。

判断に迷った時は、より大きな集団の利益を優先することだ。自分よりも仲間たち。仲間たちよりも社会全体。そうすれば判断を間違うことないだろう。

引用:「アルフレッド・アドラー 人生に革命が起きる100の言葉」小倉広 著

会社内の判断で迷ったら、社会規範に従えばいいのです、

最初に紹介したリンク先の最後に書いたエピソードに出てくる社長と総務部長は、実は、社内の規範では判断できなかったため、社会の規範で判断したのです。逆に総務部長を批判した、他部署の部長は、社内の規範で判断できなかったため、感情で判断したのです。

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辞められる状況を作っておく

バランス感覚を身に付け、それを実践するために必要なことは、「会社を知る」ことが出来れば、あとは覚悟次第というのが私の経験からの結論です。

では、その覚悟の源泉は何でしょうか?

覚悟は覚悟と根性論を述べる気はありません。あくまで論理的に考えれば、自分がいつ辞めても困らない状況を出来るだけ早く作っておくことが必要でしょう。

貯金を増やし万が一に備える、どこでも通用するスキルを磨く、困ったときに助けてくれる仲間を作るなど、方法はいくらでもあるでしょう。

バランス感覚に優れるということは、時に経営者に諫言しなければなりません。
「こんなことを言ったらクビになる?そしたら生活できない?」とビクビクし、「知ったことをなかったことにする」のはバランス感覚に優れた人とは言えません。

諫言したら、最悪会社を去らなければならない。そういう事態を想定し、万が一そうなっても困らないように、普段から準備をする。

バランス感覚に優れた人になるためには、単に仕事だけでなく、全てにおいてバランスを取ることを考えましょう。

会社は商店じゃない。
組織を作り「会社」を作ること 採用はそのスタート地点

「求人しても集まらない。面接に来たけど全然マッチしない。入社したけど1ヶ月で退職してしまった。」こんなことの繰り返しで、ずっと]採用活動を続けている。そんなことありませんか?

「曖昧な定義で“戦力”になりそうな人を探す」より「“戦力”を定義し」、「組織を作り」、その上で「自社にマッチした考えの人を採用し」、「育て」、「戦力にする」と視点を変えてみましょう。

これすなわち経営。採用活動こそが最初に経営の力が試される場なのです。

>クソゲー採用を卒業しませんか?

クソゲー採用を卒業しませんか?

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私はこれを「採用活動のクソゲー化」と呼んでます。クソゲーとはルールや設定が酷すぎて、終わらない、つまらないゲームのこと。
今までの習慣やルールを変えて、まともな採用をしてみませんか?そう考える方はこちらまで。

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