人事部長の役割とは?

就職するにしても、採用するにしても、「一体どんな仕事で、どのようなレベルを求められているのか?」という視点が、曖昧なままというのが多いようです。

リクナビなどのアンケート調査を見ると、退職理由の4~5番目には「仕事内容」が必ず出てきます。トップでないので注目され難く、御座なりにしがちですが、逆に言えば地味だけど、必ず押さえておかなければいけない分野と言えるでしょう。

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と言っても、自社内の組織とその長や所属員の役割分担を定義し、明確にするというのはかなり難しい作業です。
そこで、「考える拠り所」として以下の3点を提案します。

  1. その職種の標準的な役割を知る
  2. 自社の実情を考え、標準的な役割に加減算する
  3. 元々の資質も見た方が良い

ここでは、「人事部長」の標準的な役割の紹介と、見といた方が良い「元々の能力」とは何かについて、ご説明します。
人事部長の求人を出すときの、拠り所にしてください。

なお、中小企業では、総務部長が人事を担うというケースの方が多いと思いますので(実際に私も専門分野は総務・経理(それとIT)ですが、当然「人事」の分野も担ってました)、「総務部長の役割とは?」も合わせてお読みいただきたく思います。

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人事部長の仕事

言うまでもなく人(社員)に関わる全てです。しかしこれだけではよく分からないと思いますので、代表的なシーン別に役割を見て行きましょう。

採用

まずは人との出会いから始まります。
採用に当たっては、求職者に自社をどうやって知ってもらうか?自社の魅力をどうやって伝えるか?という、マーケティング視点と、自社のニーズにマッチした人材をどのように選別するか?という視点が求められます。

また、忘れがちなのは不採用になった人です。大きな意味では、誰でも自社のポテンシャルカスタマーですので、特に不採用になった人にも誠実に対応するべきです。
採用に関連して多くの企業を見ていると、この点が抜け落ちる企業が多いのですが、人事と雖もビジネスをしている企業の一員であるという「見識」は、必須の要素です。

入社

新卒採用の場合は、採用内定から入社まで長ければ1年もの期間があり、定期的に対応する必要があります。この期間は採用時の「自社の魅力を伝える」「自社のニーズにマッチした人材」に焦点を当て、より深堀する期間と捉えて良いでしょう。

中途の場合は、人によってまちまちですが、概ね1ヶ月以内で入社に至りますので、新卒のようなフォローは少なくなるでしょう。

入社時に大事なことは、就業規則を中心とした雇用条件の詳細説明です。給与や休日など重要なものは内定時に説明していると思いますが、それを含めて改めて説明します。

多くの中小企業で、就業規則の説明がおざなりになっています(説明を受ける方もめんどくさがりますし)。就業規則を読んで終わり、酷いところになると本人に黙読させて終わり。という会社もあります。

しかし、雇用契約を締結する場です。家を買うのに契約内容をおざなりにすると後で酷い目に会う事もあるように、契約行為は誠実かつ慎重にするべきです。

教育

そもそも本当のプロであれば自身の実力向上は自ら行うものです。
あくまでこれが大前提ですが、現実は以下の通りでしょう。

  1. 社会の変化が早く、個人の力だけでは追いつけない。何を学べばよいのかも分からない
  2. 現実には全ての人が本当のプロには成れない。(だから本当のプロは称賛されるのです)

会社というのは、パーフェクトでない人間が集団で助け合いながら成果を挙げて行くという意味付けも出来ます。であれば、本当のプロばかりではないのは当り前で、その前提で良い成果を目指す必要があります。その為の手法が教育です。

その手法は、OJTでもOff-JTでも構いませんが、人事部長には「社会の変化と自社の方針を元に、今必要と思われる教育を施す」ということが求められます。

具体的にはカリキュラムの作成、そして特にOJTを中心に据える場合は、教育内容を標準化し、OJTを担当する者への展開、あるいはOJTを担当する者への教育が必要です。

中小企業では、OJTと称し、全てを現場に丸投げをしているケースが多々あります。これでは、自社の将来のために今する教育を実践できるはずがありませんので、人事部長がイニシアティブを取って進める必要があります。

評価

人事部長が実際に評価に加わるか否かは置いておいて、評価基準は必要でしょう。
採用も同様ですが、人が人の評価をするというのは、そもそも無理があります。無理だからと開き直る会社も多いですが、無理だからこそ、評価者による偏差を無くすための努力はすべきです。

採用時に「求める人材像を明確に」、教育でも「社会の変化と自社の方針を元に、今必要と思われる教育を施す」にすると書きましたが、評価も同様に「社員に何を求めるか?」という視点が必要です。

結局、人事というのは、

  1. 社会の変化
  2. 自社の方針、方向性

を元に、では自社にどういう人材が必要か?という問いが全てです。

退職

残念ながら社員が退職することになったときは、その理由の如何に関わらず、誠実に対応するべきです。特に以下は丁寧な対応が必要です。

(1)人によっては、退職後の生活不安がありますので、社会保障制度については、その内容や手続を分かるように説明する
(2)社会保障制度は、会社が退職手続をしなければ始まらないので、事務処理は遅滞なく行う

想像力が乏しく、退職者の心情に配慮が出来ないというケースが多々あります。円満退社で無い場合は特にそういう傾向があります。人事部長の職務としては、このような負の感情を排除し、退職者の不安に思いを馳せる冷静さが必要です。

また、社内に問題があり、社員が退職するということも考えられますから、今後のために原因究明をするべきです。そいう言った意味でも退職者と信頼関係を結び、彼らが忌憚なく問題指摘を出来るようにするべきです。

日常のフォロー

人事は、日々の中で数々の問題が発生します。
この解決を図るのは勿論ですが、発生した問題の原因究明もすべきです。
問題の中には制度や教育の問題もあります。その場合は制度の改定や教育の見直しを行います。

また、昨今は特にハラスメントの問題が多く、それが原因の一つとなってメンタルヘルスの問題も多くなっています。
メンタルヘルスは早期発見、早期対処が原則ですので、現場レベルでの対応が重要です。(人事部長のところに上がってくる時には既に手遅れです)

ハラスメントは論外ですが、メンタルヘルスについてはラインケアの制度を整える必要があります。すなわち、ライン長の教育です。

人事部長に必要な資質

前項で、ざっくり「人事部長の仕事」について説明しました。
会社によっては、一部社長が担う、あるいは一部人事部員が担うこともあると思いますが、いずれの場合も人事に関しては人事部長が司令塔と考えて良いでしょう。

前項を踏まえ、人事部長に必須と考える資質は以下の3つです。

労働基準法などの法律を中心とした人事系の知識

最低限必須なのは人事系の知識です。
労働三法は勿論のこと、安全衛生法などの関連法規、雇用保険法、労災保険法、健康保険法、厚生年金法など、社会保険系法規に精通していること。またメンタルヘルス系の知識もあった方が良いでしょう。
人事部長にこれらの知識が無いと、会社が不要な争議に巻き込まれる可能性が高いです。

自社のビジョンや戦略・戦術の理解と共感

例えば採用する際、「自社の魅力をどうやって伝えるか?」というのが大きなテーマになります。この時、自社のビジョンや戦略・戦術を理解していければ、伝えられるわけがないです。信じていなければ、相手に伝わらないです。

教育プランを立案するにしても、評価基準を制定するにしても、自社の戦略や戦術(そして社会の方向性)を知らなければ的外れなものになります。

人事部長にとって、、自社のビジョンや戦略・戦術を理解する理解力が必須です。
ただし、人事部長がそれに共感するか否かは、社長の問題でしょう。

ビジネスセンスと見識

人事に限らず総務系の人は、直接の顧客を見るケースが少ないせいか、顧客より社内論理を押し通す傾向があります。ある意味仕方ないことなのですが、人事部長には、まずビジネスをしている企業に在籍しているという見識が必要です。

でも実はプロ・専門家が少ない分野

実は、この分野は、プロでなくても勤まっていると言えば勤まっている分野です。
実際に、中小企業には「なんとなく事務を経験していた中高年男性」が人事部長(だけでなく総務部長や経理部長)というケースを多く見ています。

例えば「それ、安全衛生法上ダメでしょう?」と言ってもピンと来ていないので、今までの経歴を聞くと、事務屋さんではあるけれど、経理一筋だった。ようなケースが多いです。

これは、職種の違いが分からないなど、多分に採用する方の問題がありますが、中小企業では、管理部門系を一括して任せざるを得ないこともあるので致し方ない面もあります。

一方で、採用される方も、概ねそのことは分かって入社しているのであれば(このブログはそういうミスマッチを減らすというのがテーマですが)、知識面(前項の①)の不足は、勉強で補うべきです。

しかし「なんとなく事務を経験していた中高年男性」の中には、勉強をしないという人も多いです。

そう考えると、人事部長を採用する際、前項の資質に加え「分からないことは勉強する」ということが、一番のポイントかもしれません。

前文で、人事部長を採用する際、職務内容とそのレベルを明確にすること、そして明確にする際、以下のポイントを参考にして欲しいと書きました。

  1. その職種の標準的な役割を知る
  2. 自社の実情を考え、標準的な役割に加減算する
  3. 元々の資質も見た方が良い

しかし、人事という職種は、プロ・専門家が少ない分野(あるいはプロ・専門家でもある程度は勤まる分野)であることを考えると、採用に当たっては「役割」に焦点を当てるよりも、「元々の資質」に焦点を当てた方が効率が良いです。

改めて、列記します。

  1. 理解力
  2. ビジネスセンス
  3. 見識
  4. 意欲

以上を見極めることが重要と考えます。

これらの資質を見極める方法については、こちらを参照してください。

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会社は商店じゃない。
組織を作り「会社」を作ること 採用はそのスタート地点

「求人しても集まらない。面接に来たけど全然マッチしない。入社したけど1ヶ月で退職してしまった。」こんなことの繰り返しで、ずっと]採用活動を続けている。そんなことありませんか?

「曖昧な定義で“戦力”になりそうな人を探す」より「“戦力”を定義し」、「組織を作り」、その上で「自社にマッチした考えの人を採用し」、「育て」、「戦力にする」と視点を変えてみましょう。

これすなわち経営。採用活動こそが最初に経営の力が試される場なのです。