中小企業の採用を成功させるために必要な「発想の転換」とは?

業種に関わらず中小企業の採用は大変ですよね?
私も小さいIT企業で採用を担当していたので、その大変さはよく分かります。

ただ、もうちょっと工夫すれば採用できるのに!と思うケースが多々あります。ひとことで言えば「大企業と同じことしてたら、そりゃ無理でしょう」。大企業を含め、多くの企業が同じような採用をしています。例えば「若くて優秀な人が欲しい」。
人情としては分かりますが、立場を変えれば「若くて優秀な人」ほど就職の選択肢は増えますから、こちらに振り向いてくれない確率が高くなる。というのは自明のことです。

ここで、発想を変えてみませんか?
ビジネスでも「中小企業はニッチを狙え」というのが定石。採用においてもニッチを狙った方が成功の確率は上がります。

では、採用におけるニッチはどこでしょうか?

採用戦線は相変わらず中小企業は苦戦

まずは現状分析から始めます。
2020年度版中小企業白書の「人手不足の状況と雇用環境」を見ると、「そりゃ中小企業は苦戦するわな」というデータでいっぱいです。

大学新卒のデータしかなかったのですが、従業員300人以上、299人以下の企業の求人状況がありました。

出典:中小企業庁「2020年度版 中小企業白書 第一部第一章第三節『人手不足の状況と雇用環境』」

比較大企業(従業員300人以上)は、求人倍率が1未満と安定しているのに比べ、299人以下の企業の求人倍率は、最近では10倍に近くなっております。

では、大企業は人手不足ではないのか? と思うと、そうでもなく大企業ほど人手不足、すなわち採用意欲は旺盛だと言う事です。

2020年の具体的数字を見て行くと。以下の通りです。

大企業  求人数35.6万人<就職希望者数38.7万人
中小企業 求人数44.9万人>就職希望者数5.2万人

中小企業は大学新卒の採用はまず無理。というのが一目瞭然です。
高校卒のデータは見つからなかったのですが、今は大学全入時代ですから、そもそも就職志望が少ないでしょうから、大学卒より幾分かマシなだけで、厳しさは変わらないと思います。

中途採用市場は?

では、中途採用はどうでしょうか? こちらも2020年度版中小企業白書に「転職者の規模間推移」というグラフがありました。
このデータを見てみると、かなり厳しいと言わざるを得ません。

出典:中小企業庁「2020年度版 中小企業白書 第一部第一章第三節『人手不足の状況と雇用環境』」

転職先が「中小企業」の人数が、元の企業が大・中小合わせて、2011年対比で、プラス3万人(大企業から中小企業プラス13万人、中小企業から中小企業マイナス10万人)、それに対して、中小企業から大企業への転職が、2011年対比でプラス45万人です。
大企業から中小企業への流入と、中小企業から大企業への流出の差引は、マイナス32万人です。

はっきり言って、中小企業は、大企業の不足した人手の草刈り場。

中途市場においても、採用活動しても全く人が集まらず、その一方で、人材の流出も多い。というのが中小企業の実情ではないかと思います。

ニッチを探せ!

このように、新卒・中途とも中小企業が採用するのは、大企業だけでなく中小企業同士も競争になり、成功はまず無理です。

ビジネス同様、自社より強い相手と同じ土俵で、競争するなんてあり得ません。
比較弱者である中小企業は、土俵を細かくカテゴリー分けして採りやすいところを探す。それ一択と言っても良いです。

そこで「関東労働市場圏有効求人・有効求職 年齢別バランスシート(一般常用)」で職種別・年齢別の求人倍率を見てみましょう。

出典:厚生労働省東京労働局「関東市場圏有効求人・有効求職年齢別バランスシート(一般常用)」

この中で、求人倍率が1を切っている職種・年齢。ここがニッチ分野と言えます。

大体想像通りと思いますが、中高年は就職難状態ですから、ここがニッチです。採用を成功させたいのであれば、この層を狙わない手はありません。

「と言っても中高年は」その発想を転換してみましょう

そもそも中高年は、なぜ就職難なのか? 一般的にはどの企業も中高年の採用には消極的だからです。その理由はこんな感じでしょう。

  1. 中高年には専門性を期待しているが、それが期待通りでないことが多い
  2. 中高年は、頭が固く偉そうなので扱いづらい。育てられない
  3. 若手の方が、先が長いので、定着してくれれば長い期間戦力となる
  4. 組織の年齢構成上若手の方がいい(上司が自分より年上を扱うのは難しい)

個人的な感想を言わしてもらえば、①は中高年に過度な期待を持ちすぎ。②~④は若者を買いかぶりすぎと思います。

①は、「今までの経験や人脈があるのだから、それを自社にもたらして欲しい」という感じだと思いますが、自身の周囲を見回してみて、老若男女問わず、そんな人がどれだけ存在しますか? と問いたいです。私は1人か2人くらいしか思い浮かびません。

②~④は、中高年はこんなもんだ。という先入観が大きいです。よくよく考えてみると、頭が固く育成の難しい若者だっています。若手でもすぐ退職する人もいれば、扱い難い若者も多いです。

言ってみれば、これは若者・中高年という属性に由来するものでなく、個人の特性ですから、何に期待するか?を定義して、それを見極める術を持てば、良いのです。

なんて言っても不安ですよね? ということで個々に見て行きましょう。

専門性に期待すべきか?

はっきり言って「高い専門性を有する中高年」は就職に困っていないでしょう。もしかしたら若者より転職しやすいかもしれません。
「ニッチを狙え」がテーマですから、こんな競争の激しい層を採用の対象にするのは止めましょう。

頭が固い対策

そもそも「頭が固い」というのはどういうことでしょうか?
私はその考え方や行動様式が、組織に合わない。ということだと思っています。

別に良い/悪いではなく、考え方が組織に合わない。仕事の仕方が組織に合わないというのは良くある話です。新卒若手を欲しがる企業がよく言うのは「一から組織のやり方を教育する」すなわち、他で経験をしていない方が、自社の考え方や仕事の仕方に合わせやすい、合わせるように教育し易いと言っているに過ぎません。

中高年層は、なまじっか経験があり、それが身に付いてしまっているものだから、組織の考え方や仕事の仕方に合わない。というケースが出てしまうのは仕方ないでしょう。

では、どうするか? 答えは簡単です。「採用時に見極めればいい」です。

自社の考え方や仕事の仕方への適合を見る、課題の出し方

通常の筆記試験、面接のプロセスでは、自社の考え方や仕事の仕方への適合を見ることはまず不可能です。ここでも発想を変えましょう。

詳しくはこちらを見て欲しいのですが、ひとことで言うと「自社らしいエピソードを題材に、それにどう答えるか?」を見ることです。

自分たちと同じ考え方をする人もいれば、これは凄いという考え方をする人もいるでしょう。そう言った人たちを見つければ良いのです。

チャレンジ精神豊富な中高年を集める

「高い専門性を有する中高年」の採用を止めるとすれば、中高年には何を期待すれば良いでしょうか?

むしろ「今までの経験に囚われず新たなチャレンジをしてみよう」と考える人に期待しては如何でしょうか?

では、チャレンジ精神豊富な人が注目しそうな採用条件はどんなものでしょうか?

私が推奨しているのは、「採用条件は素質一本。経験、年齢、性別関係なし」です。

ただし、これが嘘ではいけません。
法的には、「年齢、性別不問」と書かなければならないので、そう書く企業は多いのですが、実態は、不問ではないのが普通。

だから、それが真実であれば、必ず応募する人は出てきます。

真実にするためには、「素質一本で採用した人を育成する」という気構えと、具体的な方法の設計が必要です。
中小企業にとっては、これがかなり難しいことは承知していますが、実は、日本国内で採用する限り、相手が若者でも中高年でも必要な要素なのです。

大企業は、教育の仕掛けを作ってますよね?
いろいろな要素が絡むのでここでは詳しく説明しませんが、日本では学校教育だけではビジネスに通用しないので、会社での教育が必須になります。
ということは、教育の仕掛けがないだけで、採用は不利になるということです。

本当に勤務期間が短いのか?

中高年は先が見えています。それが短いのは事実です。
しかし、新卒でも3年以内に3割が退職すると言われて、もう何十年も経っていますから、新卒だから勤務期間が長い。とうのは幻想でしかありません。

逆に中高年は、先が見えているからこそ、最後まで居るのではないでしょうか?

22歳で採用して、3年で辞める可能性が3割の若手と、55歳で採用して、10年は居るでは、どちらが計画を立てやすいか?

よく考えてみましょう。

偉そう対策

私の経験では、中途半端に経験や専門性を中高年に期待するから、偉そうに振る舞ってしまうのです。

翻って「採用条件は素質一本。経験、年齢、性別関係なし」というのは、過去の経験は関係ない。素質のある人に対して、1から教育する。というメッセージですから、偉そうにする余地はほぼありません。
また、「自社の考え方や仕事の仕方への適合を見る課題」への回答を見れば、大体分かります。

それでも心配でしょうから、以下の施策を打ちましょう。

  1. 面接の質問は、「偉そう」対策だけのために使いましょう。
  2. 本採用の条件を「試用期間中の教育成果による」と明記しておいて、最悪本採用拒否すれば良いです。心底「偉そう」な人は、試用期間中に教育なんか真面目に受けないですから。

中高年の採用が若者の採用増に繋がります

今まで、中小企業の採用は「ニッチを狙え」として、中高年採用の仕方を紹介しました。別にニッチ分野であれば、中高年でなくても採用は成功するでしょう。
(例えば、私が所属したIT企業では、地方のそれほど優秀でない大学にターゲットを絞って採用し、それなりの成果を上げました。これも一種のニッチ戦略です。

その時の経験ですが、ニッチ戦略を追求して行くと、想定外の採用成果が挙げられることがあります。私の所属していたIT企業では、有名大学からの応募がありました。

同様に中高年に特化した採用をしている企業では、若手が応募してくることが増えました。
それは何故でしょうか?

実は理由は簡単で、企業が心底信じて、真実である「中高年に特化した採用」、そして紹介した教育の仕掛け作りなど「中高年の採用によって生じるリスクの最小化」の仕掛けそのものが、その企業の個性であり、ブランドになるからです。
また、「中高年採用」だけを見れば、少子高齢化の中で社会性をも獲得しています。

個性的であり、ブランディングがしっかりされており、社会性のある活動をしている企業が注目されない訳がありません。

注目度が上がれば、若者に認知もされます。
その個性や社会性に共感し、就職したい。と思う若者が増えるという、好循環が始まります。

世の中には、口だけの会社が多々ありますから、自分たちが心底信じて活動して行けば、時期のお約束は出来ませんが、この好循環が始まるという訳です。

一見、難しそうで、面倒に見えますが、今まで通りの採用で失敗し続けるより、よっぽど価値のある取組と思いますが、如何でしょうか?

会社は商店じゃない。
組織を作り「会社」を作ること 採用はそのスタート地点

「求人しても集まらない。面接に来たけど全然マッチしない。入社したけど1ヶ月で退職してしまった。」こんなことの繰り返しで、ずっと]採用活動を続けている。そんなことありませんか?

「曖昧な定義で“戦力”になりそうな人を探す」より「“戦力”を定義し」、「組織を作り」、その上で「自社にマッチした考えの人を採用し」、「育て」、「戦力にする」と視点を変えてみましょう。

これすなわち経営。採用活動こそが最初に経営の力が試される場なのです。