採用をマーケティング視点で考えてみる

  • 2021年3月29日
  • 2021年3月29日
  • 採用

私がIT企業に勤めている時、自社の採用(新卒採用のみですが)を主導する立場にありました。
皆さんもご存知と思いますが、従業員100名~200名の中小IT企業なんて、掃いて捨てる程世の中には存在し、一応は成長産業なので、どこの会社でも採用には苦労しています。

私の所属していた会社も従業員140名程度でしたから、掃いて捨てる程あった中小IT企業。一般的には採用に苦戦する会社です。

しかし、私自身実は採用活動で苦労も苦戦もした記憶はありません。どちらかと言うと「楽勝」。世の中の会社、大企業から小企業までの採用活動を横目で見ていて、「あれじゃ苦労するのは当り前」とさえ思っていました。

どんなことをやっていたかと言うと「新卒採用をマーケティング視点でやってた」だけです。
私が横目で見ていた苦労している採用をしていた会社は、規模の大小を問わず、ほぼ惰性で採用をやっていたに過ぎませんから、彼らよりはマシな採用が出来るのです。

この経験から、私の結論は以下の通りです。

  • 大量採用しない、採用にあまりお金をかけられない、小さい会社はマーケティングの考え方を導入すべき
  • 何故なら、大手と同じことをやってても、誰も気付かない。気付かれなければやってないのと同じ。知られることこそ正しい採用の全て
  • 「就職したい人」(学生)と「就職させたい人」(学校の先生)をターゲットにマーケティングするのだから、不特定多数を対象とする、商品のマーケティングより簡単
  • せいぜい10人までの採用の場合、そこから母数を逆算すれば、難しいけど出来ないレベルではない

当然これは中途採用にも当てはまります。
以下、この点について詳しく説明します。

前提

まず前提条件を決めておきます。前文と重複しますが、以下の2点に当てはまる会社を対象とします。

  • 大量採用はしない
  • 採用にお金をかけられない

私が居たIT企業には、有名就職情報会社がよく営業に来ていました。多分採用に苦戦していると思われたのでしょうが、「良い人材を採用するなら1人、1,000万円かかるのは当り前」と言われてドン引きしたことがあります。当然そんなにお金かけられない。

考えてみると、彼らが考えている顧客は、「採用にお金をかけられる裕福な企業」あるいは「新規採用を大量にする企業」(で大抵大量退職の企業なんですが)です。ほぼ大企業でしょう。

このように大企業とは、そもそもの前提が違います。前提が違えば、やり方も違って当然です。

採用の数値化

大企業は、今も昔も前述のようなノリで採用活動をしています。知名度がありますから、それなりの成果も出ます。
知名度の無い中小企業が、これと同じ土俵で勝負することが間違いですから、自社の現状を分析し、何をすべきかを考えて行きます。

まずは、自社の採用を数値化してみましょう。

私が所属していたIT企業の採用を例にすると、以下の通りです。

  • 新卒のみ毎年5名~10名を採用
  • 採用試験は、適性検査(一次)と面接(二次)。適性検査結果が一定水準以上の人に面接をする

ここから思考すべきポイントは、「採用数が5名~10名とすると、面接する人数は50名、では筆記試験をする人数は100名」そうなると「当社に興味を持った人は200名必要?」では、「取りあえず接触する人は500名必要?」と適当で良いので数字を置いてみることです。

この流れの中で、筆記試験→面接→採用の段階の人数は、自分たちでコントロール可能ということに気付くかと思います。採用数自体も自分で決めることですし、面接・筆記試験の合格率も自分で決められます。もちろん採用は面接のみ。と決めることが出来ます。

この自社の都合で考えれば良いこの部分は一旦脇に置いてみれば、「マーケティング活動は、接触人数→興味を持った人数をどうやって増やすか?」に絞られます。

古典的なマーケティングフレームワークで採用を見てみる

マーケティングのフレームワークは沢山あるのですが、要は人が物を買うときにどういう心理状態で、どういう行動になっていくか?というのをモデル化したものです。
素人的にはどれも同じように見えるので、古くからあり一番有名と思われるAIDMAで、採用を見てみましょう。

Attention:注目 →会社を知る
Interest:興味 →その会社に興味を持って調べる
Desire:欲求 →入社したい候補の会社の一つになる
Memory:記憶 →受験する会社の絞り込みをする
Action:行動 →入社試験を受ける

こんな感じでしょう。マーケティングの専門家から見たら、何これ?と言われるかもしれませんが、概ねイメージが掴めればそれでいいと思います。
以下、それぞれのフェーズごとに見て行きましょう。

注目から興味フェーズ

このフェーズでは、単に会社を知るだけでなく、興味を持ってもらう必要があります。
そのためには、ブランディングをすること。そして本人と本人に影響力にある人に知らしめる必要があります。

ブランディング

繰り返しになりますが、大手採用サイトに広告を出しても、有名でもない企業が注目されるどころか、目に止まることさえも至難の業です。有名企業と同じ土俵で勝負すること自体が間違いだし、お金がかかります。

したがって、別のところを使って、他社との違いをアピールしなければなりません。

アピールポイントはビジネスと同じ。自社のブランディングです。
どの会社も他には無い強みがあるはずです(でなければ生き残ってませんし、ましてや採用をしようとする気になるわけありません)。それに気付いて、ブランドとして確立すればいいのです。

ですからまずは、自社のブランド候補を探してみましょう。以下の方法が簡単かと思います。

  • SWOT分析でも使って、自社の強みを探してみては?
  • 本業でない所で、何か活動しているのは「違い」はブランドになり得ます

自社ブランドのコンセプトを決めたら、次はそれのPRとなります。

知らしめる対象

知らしめる相手は、本人は勿論、本人に影響力がある人です。
新卒、中途による違いや、場面の違いはありますが、本人に自社を勧める可能性がある人と考えれば良いでしょう。

他社との違いが鮮明であり、学校の先生や就職部の人が、それに共感すれば、本人に勧める確率は高くなるはずです。
中途の場合、そういう立場の人は職安の職員が考えられます。彼らは、立場上ひとつの会社を勧めるというのは無いと思いますが、それでも共感の有無で対応が違うでしょう。

知らしめる方法

「採用の数値化」で考えた通り、何人採用したいのかから、何人と接触すれば良いかが導き出されているので、それで知らしめる手段も変わってきます。

少なければ、前項の通り、人づてで知らしめるのが地道ですが確実な方法ですから、それのみで構わないですが、もう少し接触人数を増やしたい場合、他の手段も採るべきです。

直接会えるという意味では、合同就職説明会への参加がベストです。新卒であれば学校主催(こちらも自社ブランドのコンセプトが先生や就職部の人に共感を得られていれば、参加できる確率が高くなります)のものに参加、中途であれば公的機関が主催するものに参加するのが、お金もかからず良いでしょう。

合同就職説明会の掲示物、配布物、そして話す内容を、自社で定めたブランドのコンセプトに従い統一することで、認知度は高まり、興味を躍起することが出来ます。

また、ブランドのコンセプトが共感を得れるものであれば、ある程度の範囲(例えばフェイスブック内)で有名になることは、中小企業でも可能です。そういう範囲を徐々に広げれば、もちろん採用にも活かるでしょう。

興味フェーズから欲求フェーズ

最初に知ったときに、気になれば、細かく知ろうとします。
当るのは、会社案内や会社のホームページ、それと就職サイトなどの書き込みです。

ですから、会社案内、ホームページが最初に定めたブランドのコンセプトと一緒になっている必要があります。就職サイトの書き込みも、気にしましょう。もちろんどんなに頑張っても悪いことを書く人はいますから神経質になる必要はありませんが、自社のブランドイメージに影響しそうな書き込みがあった場合は、対応策を考える必要があります。

こうして、どこを見ても、ブランドのコンセプトが一致し、学生(求職者)が自分と相性が良いと考えれば、「入社したい候補の会社」の一つになることが出来るはずです。

記憶フェーズ

学生(求職者)は当然他社も当たっています。
その中から絞り込みをするので、よりイメージが強く、より自分と相性が良いと判断すれば、「受験する会社の候補」に残ります。

この段階までは、相性の判断は本人任せになります。本人が、相性が悪いと考えた場合は、本当に相性が悪い可能性が高いので、無理して追いかけことはせず、素直に諦めましょう。以下の企業のようなことをしても、まぁ意味が無いですよね。

以前、私が合同就職セミナーに参加したときの、隣のブースの話です。

強面のおじさんがブース前に立っており、学生が近寄らない。導線はその企業の前を通らないと、当方のブースに来れないので、迷惑な話です。まぁ不運としか言いようがない(そのおじさんが恐かったので直接苦情は言えず、主催者に苦情を言いましたが、当然改善されず)。

暇なので、その企業を観察してたら、迂闊にもブース前を通ってしまった学生(その中には当方を目指して来た学生も居たはず)に、強面のおじさんが半ば強制的にブースに誘導します。
ブースで一通り説明した後、学生を食事に連れて行こうと、「焼肉がいい?寿司がいい?」と毎回聞きます。
ほとんどの学生の顔は終始引き攣っていて、明らかに嫌がっているのですが、そのうち何人かは連れていかれました。。。
こんな採用活動は意味無いですよね。

行動フェーズ

試験を受ける段ですから、来るかどうか、そして試験の成績が期待通りかどうかは、神のみぞ知るです。
筆記試験でダメだったら、ご縁が無かったということと諦めるだけです。

一方、面接は、基本お互いに知る機会です。お見合い、あるいは双方にとってプレゼンの機会のつもりで臨みましょう。
採用する側の方が強いと勘違いする人は多いのですが、「採用/就職は本来対等なもの」です。
この点を忘れ、対応を誤ると、せっかくのブランドイメージが瓦解します。

特に昨今の学生(求職者)は、「就職サイト」で企業に対する口コミを見ることが多いです。ここネガティブな事が書かれてしまうとブランドイメージは再起不能となります。気を付けてください。

その意味では、不採用のときに出す通知も誠実に対応した方が良いでしょう。可能な限り相手の就職活動に有意義な情報を送ってください。何故不採用になったか?こうすれば良い。こういう業界が向いているのでは?等、次の就職活動に生かせる情報を提供しましょう。

これは、口コミサイトに書かれたくない。という下世話な動機もありますが、やはり「対等な関係である」という認識が大事だと思うからです。

実際には、多くの会社がこのことを分かっていないので、心の底から「対等である」と振る舞えば、それだけで他社との違いが鮮明になります。すなわち自社の自然な振る舞いが、ブランドになるのです。

結局は、会社の本心から滲み出てくる姿勢が、中小企業にとっては一番のブランドということです。

以上、採用活動をマーケティング視点で説明してみました。皆さんの採用活動の参考になれば幸いです。

会社は商店じゃない。
組織を作り「会社」を作ること 採用はそのスタート地点

「求人しても集まらない。面接に来たけど全然マッチしない。入社したけど1ヶ月で退職してしまった。」こんなことの繰り返しで、ずっと]採用活動を続けている。そんなことありませんか?

「曖昧な定義で“戦力”になりそうな人を探す」より「“戦力”を定義し」、「組織を作り」、その上で「自社にマッチした考えの人を採用し」、「育て」、「戦力にする」と視点を変えてみましょう。

これすなわち経営。採用活動こそが最初に経営の力が試される場なのです。