中小企業の総務部長に必要なマネジメント能力の磨き方

以前書いた「総務部長の役割、仕事内容、素質とは?」の中で、総務部長が持つべき資質としてバランス感覚と共にマネジメント能力が必要と書きました。

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とは言っても、本当にマネジメントというのは難しく奥が深いテーマですので、一朝一夕に身に付くものではありません。
私を含め多くの人が、「マネジメント」とは一体なに? 「マネジメント能力」はどうやったら身に付くの? と日々試行錯誤の繰り返していることでしょう。

ということで、私もまだ完全に身に付いていない。ということを白状した上で、私なりに現段階で「これだ!」と考える、「マネジメントの要諦は『対話』」ということを共有できたらと思っています。

なお、「総務部長」と書いてますが、マネジメントをする立場の人には共通して必要なことだと思うので、総務部長を読み替えて読んでいただきたいと思います。

マネジメントの定義

一般にマネジメントと言えば、ドラッカーですよね。
そもそも「マネジメント」って何なに? と定義しないと話が進まないので、ドラッカー先生の定義をお借りしたいと思います。

ドラッカーは「マネジメントの役割」として三つ挙げています。

①自らの組織に特有の使命を果たす。
マネジメントは、組織に特有の使命、すなわちそれぞれの目的を果たすために存在する。

②仕事を通じて働く人たちを生かす。
現代社会においては、組織こそ、一人ひとりの人間にとって、生計の資、社会的な地位、コミュニティとの絆を手にし、
自己実現を図る手段である。当然、働く人を生かすことが重要な意味を持つ。

③自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する。
マネジメントには自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題の解決に貢献する役割がある。

引用:「エッシェンシャル版『マネジメント基本と原則』」P.F.ドラッカー著 上田惇生編訳

これ、結構冗長かつ難解なので、すっきり要約しましょう。ドラッカー先生が言いたいことはこんな感じでしょう。

  1. 会社の目的を達成すること
  2. 社員を生かすこと
  3. 社会に貢献すること

なお、オリジナル文は後々触れることがあるので、そのままにしておきます。

会社の目的を達成すること

会社の目的を理解すること

1番目に来るのが「会社の目的を果たすこと」ですから、普通は、自社の目的は何でしょう? となると思います。しかし実は意外とこの点が疎かになっている会社や人が多いです。

自社の目的を知らなければ、役割を果たすことも出来ないのは当然です。だから自分が腑に落ちるまで、しつこく確認しましょう。

確認の仕方は、「経営者との対話を通じて理解する」に尽きます。特に会社レベルの判断をしなければならない時がチャンスで、自分なりの回答を表明した上で経営者とディスカッションし、理解を深めて行きましょう。

また、それを継続することが重要です。
実は、経営者自身が「自社の目的」を分かっていないケースがあったり、時代の変化とともに、「自社の目的」も変わる時があるからです。

経営者との対話を通じて、一緒に「自社の目的」そのものと、各々の理解をバージョンアップして行くということです。

総務部の役割を明確すること

「自社の目的」が理解できたら、次にする問いは「会社の目的を達成するため、総務部は何をすべきか?」となるはずです。
しつこいですが、実はこの点も疎かにしている総務部長さんをよく目にします。
日々のルーチンワークに追われて忘れがちになるのは、理解できますが、これではマネジメントという本来の職務は遂行できません。

「会社の目的」を明確にして社内に浸透させるのが、経営者の仕事であるのと同じく「会社の目的を達成するため、総務部は何をすべきか?」という問いの答えを明確にして部門内に徹底するのは、総務部長の重要な仕事です。

これはいわば「総務部の目的」となりますから、部下に伝えて理解させる義務を総務部長は負います。

対話を繰り返す

「会社の目的」が腹の底から理解でき、そこから「総務部の目的」を導き出して、それを部下が腹の底から理解できれば、まずはマネジメントとしてやることはほぼ終わりです。
しかし、「一回言ったら終わり」が通用するほど、世の中甘くないです。

経営者との対話を繰り返して「会社の目的」そのものと、自身の理解度のバージョンアップを続けるのと同様に、部下に対しても対話を繰り返して「総務部の目的」そのものと、「会社の目的」との関連について、自身と部下の理解度をバージョンアップして行くというのを続ける。
またまたしつこいですが、この点も疎かにしている総務部長が沢山います。

ここまでの3つのプロセスを繰り返すことが、マネジメントがやるべきことの大半です。
大事なので、改めて書いておきます。

  1. 会社の目的を理解する
  2. 総務部の役割を明確にして伝える
  3. 対話を繰り返してバージョンアップする

経営者、管理職を含めほとんどの人は、一度言っただけで全てを理解するほど優秀ではなく、腹落ちしたことを実行できないほど無能ではありません。

しつこく言ってましたが、このプロセスを疎かにしている会社が多い。だからマネジメントが停滞すると言ってもいいでしょう。

社員を生かすこと

ドラッカー先生の掲げたマネジメントの定義の2番目の「『社員』を生かす」とは、どんなことでしょうか?
まずは、今の「会社の目的」に貢献することでしょう。そして将来の「会社の目的」に貢献するため、社員の能力を高める必要があります。
なお、本来「社員」とは会社全体の社員を指すのですが、ここでは話を分かり易くするため「社員」を「総務部の部下」に限定して説明します。

会社の目的に貢献する

必要な仕事の取捨選択をする

総務部の現実としては「必要なことはやる」「何でも屋」という側面があります。
総務部の顧客は社内の他部署になることが多いと思いますが、お客様は神様とばかりに他部署の要望をそのまま受けると、総務部がパンクしてしまい、会社の目的への貢献どころの話ではなくなります。

したがって、総務部長は、「会社の目的」と「総務部の役割」から本当に必要な仕事を取捨選択しなければなりません。
もちろん、これには他部署との調整が必要になりますので、細かくて面倒ですが、総務部長がやらねばならない重要な仕事です。

分担を決める

人間誰でも得意不得意はあります。また能力や経験の差もあるので、同じ得意分野を持った人が複数いたとしても、その時点での業務遂行能力に差があるのが当り前です。

会社の目的に貢献という視点で考えれば、その仕事に対する遂行能力が最も高い人に担当させる方が、貢献度が高くなるのが必然です。
しかし現実には、そんな都合よくピッタリはますことはありませんので、「比較優位」で考えることになります。

「比較優位」とは簡単に言うと、個人の中で一番得意なことに特化させる。ということです。
Xという仕事に対して、能力も高く経験豊富なAさんが苦手です。一方Bさんは、それを得意といているのですが、能力も経験もいま一つなので、仕事Xの成果はAさんの方が上です。
この場合、仕事XはBさんに任せて、Aさんは自分の得意な仕事に集中した方が、成果があがるのです。

「比較優位」の視点がないと、なんでもかんでもAさんにしてもらうという判断しがちです。そうなるとAさんがパンクしてしまい、やはり会社の目的への貢献どころの話ではなくなります。

目先の業務しか考えていないと、全てAさんに頼むとか自分でやった方が早い。と考えがちですが、「会社の目的への貢献」という視点に立てば、それは間違いです。

「比較優位」は以下でも触れているので、興味のある方は参照ください。

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では、どうやって得意不得意を見極めるのか? もちろん部下との対話を通じて見極めましょう。

仕組みに落し込む

仕事のほとんどは仕組みに落し込むことが可能ですから、仕組化を目指しましょう。
仕組化の目的は以下のいずれかです。

  • いわゆるルーチンワークに無駄な時間を取られないようにする
  • 不得意分野を仕組みでカバーする

前者は分かりますよね?
後者について説明すると、中小企業では人が少ないのでどうしても不得意なことをやらざるを得ないことがあります。
それでは効率も悪いしミスも多くなりますので、それを仕組みでカバーするのです。
例えば、私は若い頃から単純チェック作業が苦手だったので、そのような作業が得意なエクセル君に任せるようにしています。

「大嫌いなチェック作業をやらない」

まぁこの程度のお話しですが、実は、仕組化は業務全体を見ている人間がやらないと、部分最適の塊になり、むしろ効率が悪くなります。
マネジメントする人が、気を付けるポイントです。

部下を育成する

社員を生かすためには、社員の成長を促す必要があります。
仮に社員がいつまでも現時点で留まっているのでは、会社の目的に貢献することは難くなります。
そうなると、オリジナル文にある、仕事が「一人ひとりの人間にとって生計の資、社会的な地位、コミュニティとの絆を手にし、自己実現を図る手段」とは言えなくなるでしょう。

その方法はシンプルです。

日々の仕事において、以下のプロセスを繰り返すことが、部下の育成に繋がります。基本形は前段で説明した「3つのプロセスの繰り返し」と同じです。

(1)目的を理解させる
(2)役割を理解させる
(3)方法を立案させる
(4)改良点を示し、最終的には承認する

もちろん、業務遂行に必要な知識は別に身に付けさせる必要があります。
その場合でも上記の①と②「なぜ身に付ける必要があるのか?」すなわち目的と役割を理解させることは必須です。
さらに、それを「身に付ける方法」は自分で発案させる。であれば必要スキルを身に付ける確率は上がるでしょう。

社会に貢献すること

マネジメントの役割の3番目です。オリジナル文を見ると「自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題の解決に貢献する役割がある」とあります。

前者は、企業が活動することによって生じる社会の影響(例えば公害など)を処理しなければならないこと。
後者は企業活動とは関係なく生じる社会問題の解決に貢献しなければならないことを言っています。

前者は当然対処すべきことです。
また、一般的な企業は社会の課題を解決するために活動しているはずですから、後者は「会社の目的」に包含されるものと考えて良いでしょう。

しかし現実には、知らず知らずのうちに社会問題の解決から外れることもあるし、場合によっては、社会に損害を与えるケースも多々あります。

それはなぜか? 私は以下の理由があると考えています。

  1. 結局、経営者が腹の底から考えていなかったため、目的と実態が乖離する
  2. 情勢の変化に過度に適応しようとして、目的を見失う、あるいは変質する
  3. 経営者の老化や交代によりそもそもの目的が忘れられてしまう

そして、こうなった時、総務部長は軌道修正をする立場の一人です。

このような会社の変化に気付くために、1周回って以下のプロセスの繰り返しが必要なのです。

  1. 会社の目的を理解する
  2. 総務部の役割を明確にして伝える
  3. 対話を繰り返してバージョンアップする

経営者との「対話」、部下との「対話」を通じて、その兆候を早めに掴めれば、それだけ早い対処が出来るでしょう。

如何でしたでしょうか?
実際にはもっと細かくてめんどくさいことが多いのですが、まずは、

・自分と関係する人たちとのコミュニケーションを通じて「自社の目的や自部署の役割を日々確認する」
・自分と関係する人たちとのコミュニケーションを通じて「お互いの理解を深める」

という二つがマネジメント能力を磨くために最も有効で、それでいて意外と出来ていないことなのです。

会社は商店じゃない。
組織を作り「会社」を作ること 採用はそのスタート地点

「求人しても集まらない。面接に来たけど全然マッチしない。入社したけど1ヶ月で退職してしまった。」こんなことの繰り返しで、ずっと]採用活動を続けている。そんなことありませんか?

「曖昧な定義で“戦力”になりそうな人を探す」より「“戦力”を定義し」、「組織を作り」、その上で「自社にマッチした考えの人を採用し」、「育て」、「戦力にする」と視点を変えてみましょう。

これすなわち経営。採用活動こそが最初に経営の力が試される場なのです。