業績向上に絶大な効果も。中小企業の「頼りになる総務部」の育て方

総務部門は地味です。しかし、総務分野を担う部門が無いと困るという存在です。
地味でありながら必要な仕事を担うということで「縁の下の力持ち」と表現されたり、現場を始め社内で分からないことがあると、全て振られることが多いので「なんでも屋」とも言われます。

その総務部を単に「縁の下の力持ち」「なんでも屋」で終わらせるのはもったいないと思いませんか?

よくよく考えてみると、総務部は、「縁の下の力持ち」「なんでも屋」だからこそ、より「頼りになる存在」にすることで、ビジネス活動に直接役立ったり、社内風土を変えることも出来る存在なのです。

そもそも会社にいなくてはならない部署なのですから、どうせなら、「頼りになる総務部」が会社の中核のひとつになる組織作りをしたらいかがでしょうか?
誰がやるか? もちろん社長自ら育成に勤しむべし。です。

なお、ここでは「総務部」と表現していますが、「総務部長」とほぼ一緒になりますので、「頼りになる総務部長」像を考えたい方は、「総務部」を「総務部長」と読み替えてください。

まず「しっかりしている総務部」について

中小企業は、総務部がしっかりしていれば、会社は楽に回ります。
何故かというと、総務部の仕事は社長の仕事と被るからです。

総務部がしっかりしていれば、社長は社長にしか出来ない経営に注力できるという好循環になります。逆に総務部がしっかりしていない、あるいは総務部が信頼できないと社長が感じている状態では、社長は、総務関連の仕事もやらなければならないので、経営が後回しになりがちで、上手く行きません。

まぁもっと酷いのは、総務部も社長もしっかりしていない会社ですが、こういう会社は早晩無くなるでしょう。

さて、「しっかりしている」というのはどういう状態でしょうか?
究極的には、社員に問題が生じたとき、社長ではなく総務に相談に来ること。総じて総務は社員の父母のような存在になった方が上手く行きます。
社員に対しては、時に厳しく、時の優しく。これは総務部(間接部門)だから出来ることです。

そのためには、総務部の本筋である、経理や会計、労働基準法を始め労働関係の法律、社会保険や会社の福利厚生施策についての知識が必要。
そして、経営者に近くにいる労働者として、双方の考えを理解し、組織全体の最適化のために調整できる能力を持ち合わせている。

こんな総務部が「しっかりしている総務部」でしょう。

では「頼りになる総務部」とは?

では、「頼りになる総務部」とはどんな感じでしょうか?
もちろん「しっかりしている総務部」より一歩も二歩も進んでいることが必要です。

企業は「ビジネスを通じて利益をあげる組織」と定義することも出来ます。そうじゃないという人もたまにいるのですが、今回その議論は脇へ置き、この定義が正として話を進めます。

総務部は間接部門ですから、通常はビジネスへの関与も、直接的な利益への貢献もありません。言ってみればコストセンターです。

これが「しっかりしている総務部」(=総務部としてやるべきことはキッチリやって)プラス、ビジネスへの関与をしたり、利益への貢献は始めたりしたら、「うちの総務頼りになるね~」となりませんか?

総務部に所属している人たちも、単に「縁の下の力持ち」「なんでも屋」に留まらず、「ちょっとだけだけど、スポットライトの当たることもやる」というのはモチベーションアップに繋がることでしょう。

私はこういう総務部を育成することをお勧めします。

総務部が業績向上に寄与するポイント

繰り返しになりますが、「しっかりしている総務部」であれば、経営の周辺業務で煩わしいところは全部やってくれるので、経営者は経営に集中できます。それだけで十分ビジネスや利益に貢献していると言えます。

それにプラスαというのは大変!と躊躇する人も多いと思いますが、その役割上、社内にはなかなかいない特徴を持っているのが総務部です。

例えば、総務部は社外に向けては通常ユーザになります。学ぼうと思えばその立場だからこそ学ぶことが出来ます。主な学びは二点です。

  1. 業者さんとの付き合い方。
    ダメな総務部は、出入りの業者さんをいじめます。しかし、どんな相手でも対等なお付き合いするのが良い総務です。

    何故かというと、総務としてお付き合いしている分には当方が顧客でも、会社全体で考えれば、立場が逆転することがあり得るからです。
    業者さんを尊重して対等にお付き合いする姿勢を貫くことが、実は自社の仕事に結びつく。広い意味で営業活動をしている。
    そういう意識を持っている総務は強いのです。

  2. ユーザとして社会と関わる部門
    一方で、業者さんと対峙するということは、ユーザとして社会と関わる部門ということです。
    資材や調達部門の無い会社では、恐らく唯一の存在ですから、世の中のニーズや動向を社内で唯一ユーザ視点を持って見ている人たちが総務部です。
    そんな彼らの知見をビジネスに活かさない手はありません。

分かり易いのは商品開発に彼らの知見を活かす。ですが、その以外の分野でも違う視点での意見を言ってもらうことは有意義なことです。

また、どんな形であれビジネスに関与することで、総務部員の視野が広がります。
ビジネスには不条理が付き物ですが、ビジネスを通じてそれを理解することで、総務部の柔軟性が高まり、四角四面に決まり通りという運用をしない、「健全なる物分かりの良さ」を獲得することも期待できます。

以上は一例ですが、他には前述の「経営者の近くにいる労働者」ですので、良くも悪くも経営者が普段何を考えているか? 会社がどのような方向に進もうとしているか? 迷走状態も含めて知る事が出来るというのも他部署では経験できない総務部の特徴です。
こういう点も活かすべきでしょう。

総務部の育て方

どんな人が適任か?

総務の仕事に適任な人は、分からないことがあったら自分で調べられる人。それだけです。
何故かというと、総務部の守備範囲は多種多様で、ここだけやってれば勤まるという性質の仕事ではないからです。

例えば、今はコロナの対応をしなければならないですが、2年前にはこんなことを考えたことが無い人が大多数でしょう。
しかし、総務部は、コロナが出てきたら、それについて学び、産業医などと連携して、自社の対策を立案しなければならない立場です。

このように、臨機応変に学び、対策をして行くという基本スキルがないと、「しっかりしている総務部」の仕事は勤まりません。

そして、このスキルをビジネスなどに応用していくことで、「頼りになる総務部」になります。

社内で一から育成する

まず、総務部の本来の仕事から考えて、社内で一から育成するのがベストです。
何故か?前述の通り仕事内容が社長と被るので、会社の文化を理解し、体現することが求められるからです。

また、育成は社長自身がやるべきです。繰り返しになりますが、総務分野に関しては、自分の代わりと考えるのです。

そう考えると、中小企業では、親族から対象者を選ぶのがベストでしょう。

役割を明確にして権限委譲する

便利屋としての総務部以上の権限を与えないと、本当に優秀な人は去るでしょう。残るのは、便利屋にどっぷり漬かっているだけの人です。そういう人は、新しいことを学ぼうとせず、難しい仕事、新しい仕事から逃げるだけです。

便利屋であることは現実として仕方ないのですが、実は社長も便利屋ですから、自分の役割のうち総務に関わる部分は積極的に委譲しましょう。

相手が未熟でまだまだ以上出来ない?
未熟でいいのです。仮に彼らが失敗しても、リカバリーできますよね? 社長なら。

それより経営者が経営者の仕事に注力できるようにするのが先です。社長は他人が出来る仕事をしても仕方ない。社長しか出来ない仕事に注力するためにどんどん委譲しましょう。

本人たちが本当に優秀であれば、失敗しながらでもその仕事をこなして行くでしょう。
こうやってまずは「しっかりしている総務部」を作って行きましょう。

総務部の枠を超えさせる

「しっかりしている総務部」作りが完成後でも、作っている最中でも良いのですが、総務部の枠を超える取り組みをしましょう。

例えば以下のような事に関与させるのが良いです。

  1. 製品開発をしているような企業では、それに参加させる
  2. 製造プロセスの改善に総務部を関与させる
    ビジネス部門、総務部双方の視野を広げることを主たる狙いとしますが、この取組によって今までとは違う製品を開発できたり、製造プロセスの抜本的な改善が出来るかもしれません。
  3. 総務特有の知識を活かしたビジネスに従事させる。例えば業務改善コンサルタントにするなど
    既存のビジネスに組込むか、全く新しくビジネスを興しても良いです。
  4. 経営にオブザーバーとして参加させる
    総務の部長クラスになると経営に参画するというは普通なので、もっと若いうちから参画させるのが良いと思います。

以上はあくまでも私の経験に基づく例なので、それぞれの会社の事情で内容もレベルも変えて構いません。大事なのは、「総務部の枠を超えさせる」ことです。

何でも言える社風を作る

今まで述べた通り、総務部は、社内の中でほぼ唯一と言っていいのですが、違う視点を持った存在です。ビジネスに関してはユーザ視点で、社内の事に関しては、経営視点も従業員視点、さらに法的なこと知った上で判断しています。

この違う視点の多さ、視野の広さを活かさない手はありません。
そのために「総務部の枠を超えさせる」ことで、総務部の特徴をビジネスに応用しつつ、「頼りになる総務部」への訓練の場を提供するのです。

しかし、他部署が自部門の枠に固執すると上手く行きません。そして往々にして他部署は頑固です。
例えば、経営者が「経営に口出しするな」、現場部門が「現場のことに口出しするな」ということです。
他部署がこのような態度でいると、総務部の知識の広さ、違う視点の多さを活かせません。また、総務部と共に成長することも出来ません。

結局は、それぞれの部署は部門の中で安住し、総務部も便利屋としての立場以上にならない。これは勿体ないことです。

ですから、経営主導で、社内の誰もが何でも言える環境を整えることが必須になります。

また、「何でも言える社風」というのは、昨今話題になっている「心理的安全性」にも直結することです。すなわち「何でも言える社風」は業績向上への鍵となります。

今回紹介した取組は、総務部を頼りになる存在に育成する過程で、「心理的安全性」構築に取組めるということでもあります。

会社は商店じゃない。
組織を作り「会社」を作ること 採用はそのスタート地点

「求人しても集まらない。面接に来たけど全然マッチしない。入社したけど1ヶ月で退職してしまった。」こんなことの繰り返しで、ずっと]採用活動を続けている。そんなことありませんか?

「曖昧な定義で“戦力”になりそうな人を探す」より「“戦力”を定義し」、「組織を作り」、その上で「自社にマッチした考えの人を採用し」、「育て」、「戦力にする」と視点を変えてみましょう。

これすなわち経営。採用活動こそが最初に経営の力が試される場なのです。