理念経営

私が新卒から29年間勤めた会社、入社当初は酷いものだったのですが、3年目に入社して来た上司は素晴らしい人でした。

後年その人とちょっとトラブルになりまして、今はもう会うことも無いのですが、若かった自分にとっては、大いに刺激を受け、成長させてもらった存在。
ある時期までは、自分にとって理想の上司でした。

ここのブログは、企業の採用や教育を考えて行こうというのがテーマですので、過去私が部下として経験したマネジメントや経営手法を紹介したいと思います。

今回は、会社運営に「理念」がどのくらい有効か、そしてその難しさについてです。

元々基軸が無い会社

私が新卒として入社したとき、その会社は創立2年目。大手メーカー系列のIT企業に技術者を派遣するためだけに設立された会社でした。
とりあえず新卒の人を集めて、ロクに技術教育もせず、派遣に出す。というのが主業務。
今では考えられないですが、当時は人手不足で誰でもよかったんですね。

そんな会社なんで、会社としての意思も何もなかったです。新卒だったこともあって、何も分からず入社したものの、「この会社こんなんでいいのかな?」と漠然と思っていました。

理念を定める

数年経って、初代の社長が病気になり、この社長のかつての部下だったという人が入社しました。その人が私の尊敬していた上司です。

入社するなり、「これからは理念経営の時代だ」と言い出し、「経営理念」を定めました。しかし、社内の反応は「???」という感じ。まぁそうですよね。「理念」という単語の意味さえ分からない。定められた「経営理念」も抽象的かつ理想的。当初は、お話として聞いていました。

しかし、件の上司は、この理念を事あるごとに語ってました。そのしつこさは凄かったです。

でも、しつこく聞かされると、なんとなく分かってくるのですよね。

単語の意味を知ると、その単語が目に飛び込んでくる機会も増えてくる。なんて経験ありますよね?私もこのときそんな経験をしました。で、興味を持つと知る機会がより増える。

結局、以前漠然と「この会社こんなんでいいのかな?」と思っていた理由は、理念がなかったことだろうと思うに至りました。

問題職場への理念の徹底

「理念」への理解が深まり、私はそれに共感しました。
そうなると、思考も発言も「理念」に沿ったものになります。

30代のとき、その会社内に、どうも上手く行っていない問題の多い職場があり、その職場のトップとして立て直しに行くことになりました。

行ってみると、どうも「理念」が浸透していない。その会社に勤めている以上、共感とまでは行かないまでも各々の社員が「理念」を理解していなければ上手く行かないのは当然と考え、最初に「理念」の浸透に着手しました。

やったことは、件の上司の真似。ひたすら理念の話しをするです。

半年もすると、雰囲気も良くなり、成績も上昇。問題職場は一転して、良い職場に生まれ変わりました。

「いや~理念のパワー凄いな~」と一瞬喜んだのですが、その後がいけない。何故か停滞し始めました。

その時は若かったこともあり、その停滞理由が分からず、最終的には上司失格みたいな形になって、本社に強制送還されました。

理念のお題目化

何がダメだったか?
ひとことで言えば「理念のお題目化」です。

理念というのは、抽象的なものが多いです。そしてほとんど反対されないものです。

例えば、「世の中のためになる仕事をする」という理念には(それにしても抽象的過ぎますが、これは例なのでご了承ください)、あまり反対する人はいないでしょうから、これで一つの纏まるのは、まぁ簡単でしょう。

実際に私がやったのはその段階です。ただひたすら「世の中のためになる仕事をする」レベルのことを言い続けた。
みんな最初は(私と同じで)意味が分からなかったけど、理解したら賛同した。みんな「世の中のためになる仕事をする」と思い始めた時点が、雰囲気が良くなり、成績も上昇したときです。理念で職場が纏まったという状態です。

この状態の次に来るのが「で?」「なにすんの?」です。

当時の私はこれに気付いていないんだすよね。そりゃ停滞します。

「もっともらしいこと言っているけど、結局お題目じゃん」と社員に見透かされ、信頼を失ったということです。

私の場合は、あまりにもお粗末ですが、このように理念とかビジョンが「お題目化」して上手く行かないケースは結構あります。

実行の方が何倍も難しい

批判覚悟で言うと、それなりの人生経験を積んでいれば、お題目としてもっともらしい理念は誰でも作れるでしょう。問題は、それを実現させる手段です。

会社ですから、最終的にはオペレーションとして確立し、定着させ、(利益だけとは言わないけど)成果を出さなければ意味がない。
実際そこに至る道は、理念を定めるより何倍も難しいです。

理念は普通抽象的なものですから、実現するために具体的な施策を見出し、行動しなければなりません。
しかし活動として具体化すればするほど、行動すればするほど各人の考えに差が出てきます。これを調整しなければ先に進めません。

行動すれば現実の壁が出てきます。今までやっていた仕事と理念が相反するケースもあるでしょう。あくまで理念を押し通すのか、お金のために妥協するのか?判断しならないことも出てくるでしょう。
これらを全てクリアしなければ先に進めません。

挙げだしたらきりがないので、この辺で止めますが、いずれにしても、先に進めなくなった時点で理念は「お題目化」します。一周回って、皆が「お話し」として聞くようになります。

30代の私は分かっていなかったのですが、理念経営するというのは、日々の小さな調整やら妥協の積み重ね。そして終わりが見えない仕事。それを自分でやり切る覚悟が必要なのです。

本来会社でも個人でも「理念」はあった方が良いと思います。我々(私)は、なんのために存在するのか?ですから。

しかし、それが往々にして「お題目化」してしまう事から見て、必要だけどかなり難しい手法なのでしょう。
だからこそ、経営者に皆さんには、勇気を持ってチャレンジして欲しいやり方だと思っています。

会社は商店じゃない。
組織を作り「会社」を作ること 採用はそのスタート地点

「求人しても集まらない。面接に来たけど全然マッチしない。入社したけど1ヶ月で退職してしまった。」こんなことの繰り返しで、ずっと]採用活動を続けている。そんなことありませんか?

「曖昧な定義で“戦力”になりそうな人を探す」より「“戦力”を定義し」、「組織を作り」、その上で「自社にマッチした考えの人を採用し」、「育て」、「戦力にする」と視点を変えてみましょう。

これすなわち経営。採用活動こそが最初に経営の力が試される場なのです。