総務部長の評価

総務部長をどうやって評価しいたらいいか?
そんな悩みをよく聞きます。

間接部門は成果がよく分からない。したがって評価をし難いです。思わずエイや!と評価しがちです。

いつも言ってますが、会社である理由は「得意分野の違う者同士が分業しある目的を達成するため」です。
この定義に従えば、(総務部長に限らず)評価基準は、目的への貢献、つまりそこに辿り着くための道筋をどう歩いたか?になります。

具体的には以下で説明しましょう。

間接部門の成果と評価は不明瞭

会社というのは一定の成果を求められるというのは自明のことです。
例えば営業部門では、売上高やリピート率を成果と見ることは、多くの人が同意出来ることでしょう。それを元に評価を決めて行けば良いわけです。

一方、間接部門は成果の定義が曖昧となってしまします。それどころか、以下のように予算獲得が目的化することもしばしばあります。

このことは企業内サービス部門にもいえる。成果に対する支払は受けない。(中略)
支払いは、間接費すなわち予算から受ける。(中略)
予算型組織では、成果とはより多くの予算獲得である。業績とは、予算を維持ないし増加させることである。(中略)
しかるに予算というものは、そもそもの性格からして、貢献ではなく目論見に関わるものにほかならない。

P.F.ドラッカー マネジメント 基本と原則

また、会社によっては社員の給与や賞与を見れる立場なので、他の社員との関係で給与や賞与が決められるというケースがあるようにも思います。経営者としてみれば「少々高くしておけば不満も持たないだろう」という感じで、成果に関係なくエイヤ!と決めているケースも多いようです。

その気持ちは分かりますが、やはり間接部門と言えども、成果と評価は明確にした方が良いです。

間接部門6つの規律

成果と評価を行う参考として、再び「マネジメント」から引用すると、公的機関(「マネジメント」では企業内サービス部門も公的機関の準じるものとして扱っています)に以下の6つの規律を求めています。

(1)「事業な何か、何であるべきか」を定義する
(2)その目的に関わる定義に従い、明確な目標を導き出す
(3)活動の優先順位を決める
(4)成果の尺度を定める
(5)自らの成果についてフィードバックを行う
(6)目標に照らして成果を監査する

P.F.ドラッカー マネジメント 基本と原則(一部抜粋)

抽象的で分かり難い部分も多いですが、まずは「総務部門の事業は何か?」という問いから得た結論から「期待する成果」を導き出し、目標・優先順位・評価基準・振返りと成果の確認をすると考えて良いでしょう。

総務部門や総務部長の成果

アメリカのように予め「職務内容(記述)書」を作って採用をしていれば、総務部員や総務部長への期待する成果が明確ですが、日本の中小企業で「職務内容(記述)書」を作成しているようなところはまず無いでしょう。

したがって、前項のような手順を追って、少なくとも総務部門や総務部長に「期待する成果」を明確にするというのも一つの方法です。

三度ドラッカーになりますが、「総務部門の事業は何か?」の前段には、「総務部門の顧客は誰か」という視点が必要です。

総務部門の顧客は?

言うまでもなく「総務部門の顧客は社内の人と組織全て」です。

社員が関わる法的なこと、共通インフラや環境の整備、雑務まで含めて、社内に向けてサービスすることで、営業や製造が後顧の憂いなく対ユーザーに専念できるようにするのが総務部門の役割と言えるでしょう。

総務部長の顧客は?

総務部長の顧客は、以下の三者です。

  1. 社員
    社内の人と組織全てを顧客とする総務部の長ですから、当然第一の顧客は社員となります。
  2. 部下
    これは総務に限らず、部門長全部に言えることです。
    部下が能力を発揮できる環境を整えること、そして部下の成長を促すこと。
    究極的には、自分が引退した後の後継者を育てることが、総務部長に課せられた役割の一つです。
  3. 経営者
    総務部門の顧客は社内の人と組織全てですが、その中でも特に総務部長の顧客は経営層です。ひとことで言えば、経営の分野だが、経営者が不得意なことの補佐、実務面でのサポートという役割を担います。
    また、時に経営者に代わり、会社を代表して外部とのお付き合いをするのも総務部長の役割です。

総務部長の成果と評価

前述の通り、総務部長の顧客は「社員」「部下」「経営者」となります。

では、事業は何か?

しつこくドラッカーを引用すると、

この種のサービス機関が生み出すものは、欲求の充足ではない。必要の充足である。

P.F.ドラッカー マネジメント 基本と原則

純粋なビジネスでは、顧客の欲求を満たすことが求められますが、総務部長に求められることは、「社員」「部下」「経営者」が必要としていることを充足するというのが最低条件になります。

端的に言うと、「うちの会社ダメじゃん」「総務、気が利かねぇ」なんて声が出ないというのが必要です。(しかし実際には、こういう声の出ない会社は珍しい。。。)

このような会社は従業員や経営者の満足度が高いでしょう。社内の満足が顧客満足に繋がるのですから、営業同様「業績」こそが総務部長の成果指標となるでしょう。
しかしながら、これでは漠然とし過ぎです。

私は以下を推奨します。

  • 退職率
    社員が現状に満足していれば、退職は少なるなると思います。ビジネスを担う社員たちが、後顧の憂いなく対ユーザーに専念できるようにするのが総務部門、総務部長の役割ですから、社員が辞めないというのは、一つの指標です。ある会社で総務部長が退職した後、退職率が急上昇したという事例があります。社員の退職原因が総務部長の退職だけではないでしょうが、私の知る限り、件の総務部長は社員から信頼されていたので、原因の一つであったと考えられます。総務部長より上席の役員や、後任の総務部長では、社員の信頼を得られなかったのでしょうし、社内サービスの著しい低下があったとも聞きました。後任を育てていないという点は、この元総務部長の失点だと思いますが、在任中に社員の満足に貢献したという点では、良い総務部長でした。退職してから気付いても遅いのですが。
  • メンタルヘルス不調者の数
    ご存知の通り、近年社員のメンタルヘルス対策は必須事項となっております。繰り返しになりますが「ビジネスを担う社員たちが、後顧の憂いなく対ユーザーに専念できるようにする」のが総務部門と総務部長の役割です。メンタル不調になる社員がいるということは、社員に後顧の憂いがあるということです。しかしビジネス部門は、メンタルヘルスの知識が乏しく、中にはメンタルヘルス対策の必要性も認識していない部門があるのが現状です。
    ビジネス部門のマネージャーを始め、社員各人の認識を改めるよう、また最低限の知識を持ってもらうよう、教育をするということが益々重要になってきています。加えて、総務部長は、社員にとっての最後の砦の役割を担う必要があるでしょう。
    社員が「あの総務部長に話をすれば何とかしてくれる」という信頼を寄せるのが、理想の総務部長像です。
  • 取引先の評価
    前述した通り、本来は「業績」こそが総務部長の評価ポイントです。
    総務部が経理まで担っていれば、お金のやり取りで直接取引先と関わることもあるでしょう。ここでのやり取りが悪ければ、直接ビジネスに影響が出るでしょう。また、法律やその会社の習慣から取引について判断をしなければならないこともあります。その時に社内の事情だけでなく、取引のことまで考えているか?簡単に言えば、取引の中で営業が「うちの総務がうるさくて・・・」なんて言ってたら、業績にもそれなりに影響があるでしょう。総務部門・総務部長にとって、取引先の評価も大事な指標になります。

経営者と被る総務部長の評価

既にお分かりと思いますが、私がお勧めした総務部長の評価ポイントは、ほぼ経営の問題と被ります。

退職率もメンタルヘルスの問題も、経営課題です。
そもそも「うちの会社ダメじゃん」という声は、総務に向けられたものなのか、経営に向けられたものなのか分からないし、「総務、気が利かねぇ」も総務の責任でなく経営の問題であることも多いです。

これは簡単なことで、経営者の顧客の一つが「社員」なのです。そして経営者の役割の中の大きな一つに社員満足の向上があります。

なんのことはない、経営者と総務部長は、顧客も役割もほぼ被っています。違うのはその中での役割分担です。
経営者はそれが経営寄り、そして総務部長は実務寄り、総務部員は実務そのものというだけです。

こうやって考えると、総務部長の本当の評価ポイントは、以下の3点でしょう。

  1. 経営者のビジョン・戦略・戦術など「方向性」を理解し、共感しているか?
  2. ビジョン・戦略・戦術を、裏方としてサポートできているか?
  3. 実務面だけではなく、経営者をサポートできているか?

①と②は必須、③は出来ていれば素晴らしい総務部長です。

分かり易い例として、「退職率」「メンタルヘルス不調者の数」「取引先の評価」を挙げましたが、これらの実践には、会社の方向性を理解し、共感している。という状態が、必要でしょう。

逆に、経営者にビジョン・戦略・戦術などの方向性が無い場合、全く総務部長を評価できません。

最終的には、前述した元総務部長のような良い人材には、愛想をつかされます。

そもそも絶対正しい評価はない

長々と書いてきましたが、そもそも評価には絶対これが正しいは無いと私は考えています。あるのはその会社の方向性に基づく評価のみです。

総務部長の評価に限らず、社員全ての評価は、ビジョン・戦略・戦術に基づいて成されるものです。でなければ、社員は努力の方向すら分からないです。

したがって、経営者は、ビジョン・戦略・戦術を磨き、それを社員に周知することに最大限の努力をすべきです。
社員の評価とは、経営者にとって一番重たい、大変な仕事なのです。

最後に余談ですが、この経営者の重要な仕事のサポートが出来る総務部長こそ、本当に評価できる総務部長でしょうね。

会社は商店じゃない。
組織を作り「会社」を作ること 採用はそのスタート地点

「求人しても集まらない。面接に来たけど全然マッチしない。入社したけど1ヶ月で退職してしまった。」こんなことの繰り返しで、ずっと]採用活動を続けている。そんなことありませんか?

「曖昧な定義で“戦力”になりそうな人を探す」より「“戦力”を定義し」、「組織を作り」、その上で「自社にマッチした考えの人を採用し」、「育て」、「戦力にする」と視点を変えてみましょう。

これすなわち経営。採用活動こそが最初に経営の力が試される場なのです。